2013-01-01から1年間の記事一覧

料理は芸術

ミッテラン大統領に仕えた女性料理人、ダニエル・デルプエシェ。 彼女をモデルとした『大統領の料理人』(フランス、クリスチャン・バンサン)では、大統領直下の保守的な厨房で孤軍奮闘。規律に縛られた男たちには思いつかない魅力的な料理を次々と作り上げ…

奔放とセンス

『わたしはロランス』(カナダ・フランス、グザビエ・ドラン)は、性同一性障害の男とその恋人との10年にわたる出会いと別れを基軸に、奇抜でファッショナブルな映像が挿入される。 題材にしばられて、変に重くなるわけでもなければ、不自然に軽くなるわけで…

タイツの中身

カラオケボックスでしゃべりあう全身タイツの男女たち。体を覆うことで、日頃のしばられた精神を解放しているのだ。 『ゼンタイ』(日本、)では、オムニバス形式で、彼らの苦い日々が明かされていく。 草野球、コンパニオン、飲み会、スーパー……。 残酷で繊…

大陸の風景

筋を追うだけなら、ありきたりの青春ロードムービーに終わりかねない『オン・ザ・ロード』(フランス・英国・米国・ブランド、ウォルター・サレス)。 光沢を与えたのは、アメリカ大陸の映像美だ。 決して甘い思い出とは言い難い、破天荒で哀しい出来事も、…

束の間の幸福

ロサンゼルスの犯罪多発地区でロケした『エンド・オブ・ウォッチ』(米国、デビッド・エアー)の画面は、終始緊張感に満ちている。 いつ襲われ、殺されるか。警官でさえ、危険性から逃れられない。 同僚や家族と過ごす時間は、束の間の幸福なのだ。

想像写真

サハリン島・国際諜報団密会場所……。 説明的ではない『米田知子 暗なきところで逢えれば』(東京都写真美術館)の写真群は、見る者に想像の光を開放する。

紛争の果てに

支配層に抵抗し、独立運動を進める者も、平和的とは限らない。 犠牲になるのは、女たちだ。給仕係を強要され、レイプまでされてしまう。 『最愛の大地』(米国、アンジェーナ・ジョリー)は、ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争で敵味方に分かれた男女が、収容…

小国の政治手腕

発言力の乏しい弱小国にとって、国家水没を防ぐには、手の内をさらしてまでも他国の共感を得て、温暖化対策を国際会議で訴えるしかない。 『南の島の大統領』(米国、ジョン・シェンク)は、使命感にあふれた若き大統領の奮闘ぶりをドキュメントする。

家庭内争議

金を使い込んで、実家を去った兄。戻ってきたときはホームレスになっていた。就職のあっせんで弟夫婦や親類に世話を焼かせるうちに、一族の対立をあらわにする。 優雅に見えるライフスタイルこそ、隠れた部分が表面化したときのギャップは甚だしい。 二兎社…

美の世界で生きるために

美しい映像を眺め、身をゆだねていればいい。 『トゥ・ザ・ワンダー』(米国、テレンス・マリック)に、言葉や葛藤は無用だ。世俗的なものが生じた途端に、夫婦は別れ、牧師は町を去らなければならない。 宗教画のような美しい世界に存在するためには、俗な…

日本の歴史

終戦後も、責任者がはっきりしないまま、国体を護持する日本。『終戦のエンペラー』(米国、ピーター・ウェバー)は、米軍准将が、天皇と政府関係者の調査を通じて、日本的不条理に迫る。 肝心なことが記録されず、各々の記憶と見方に頼る日本。歴史的な決断…

完成以前

『エヴァンゲリオン展』(松屋銀座)では、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』3作を中心に、イメージボード・絵コンテ・原画など生の資料が公開されている。実作者向けのプロセス公開というよりは、固定ファン向けの展示である。 ファンであれば、完成以前の状態…

絵画のような写真

写真でありながら、絵画のような……。スーパーの陳列棚や、汚れた川の水面でさえ、角度を変えてとらえれば、抽象画のようにさえ、見えてしまう。 『アンドレアス・グルスキー展』(国立新美術館)の写真群は、現実の意外な見え方や、殺風景な物の思いがけぬデ…

大人に向けて

自分を信じなければ、行動はできない。信じすぎれば、他人を不幸に巻き込んでいることに気付かなくなる。 人間が生きることの不条理を自覚しつつ、宮崎駿は『風立ちぬ』(日本)を提示した。 大人と子どもとの補助線は組み込まれているが、純然たる子ども向…

語りの対象

「ほんとうの戦争の話」の、ある意味でもっとも優れた、ある意味でもっとも嫌われる、またある意味でもっとも大切な語り手が「戦後(戦争)文学」の作者たちであることは、間違いないだろう。 彼らは、語るべきことばを持たない人たちの「代理人」であることを…

表現の歴史

手法や考え方は皆違う。マネをする必要はないが、彼らの試行錯誤を知ることは、新しい表現法を生むために大いに役立つはずだ。(樋口真嗣「特撮黄金期の担い手たち 「国宝級」技術者の肉声を記録、次の時代へつなぐ」『日本経済新聞』15日) 試行錯誤の歴史…

作ること

『作るんじゃなかった』という気持ちは分かりますが、作らなかったら、もっとつまらない人生だったと思います。映画の中でも言いましたが、飛行機は『美しくも呪われた夢』です。(宮崎駿「インタビュー 零戦設計者の夢」『朝日新聞』20日) 人間は間違える…

個人の居場所

おそらくはあらゆるくくりから「はぐれている」個人としては、こういう個人が個人であることをあきらめないでいられる世界、みだりに殺されない世界であるといいと。これは要望というより祈りのようなものかもしれません。(黒田夏子「はぐれた個人の居場所…

最初の人間

「最初の人間」とは、民族や伝統にこだわらず、ゼロから人生を切りひらく人間だ。たのむのは神や歴史ではない。その身で享受した世界の美しさを信じ、人間を襲うあらゆる暴力的なものに抗しながら、最後まで生きることの意味を問い続けた。(宮本茂頼「はじ…

観察日記

自分を取り巻く世界を冷徹に観察し、生き物実験を持続する少女。 フィクションとドキュメンタリーを混在させた『タリウム少女の毒殺日記』(日本、土屋豊)は、カルチャー雑誌のように雑多な素材が、見る者の思考を触発する。 過度に感情的でもないし、身近…

大人と子ども

政策の失敗も原発事故の被害でさえも忘れられたかのように、昔ながらのやり方で行なわれる選挙。 『選挙2』(日本・米国、想田和弘)では、大人たちの言い分で動かされる世界の傍らで、子どもだけが異なる思考で動き回っている。 そこに、未来がある。

不死身の英雄

自由の圧殺者に抵抗する者ならば、暴力的な無法者でも英雄視される。 禁酒法時代に密造酒で儲けたボンデュラント3兄弟は、『欲望のバージニア』(米国、ジョン・ヒルコート)で西部劇張りのヒーローとして描かれている。 不死身伝説を付与された彼らとて、命…

選挙を控えて

選挙の立候補者全員が、大々的に報道されるわけではない。 メディアで取り上げられるのは、著名人か、後ろ盾のある一部の候補者に限られ、選挙の世界でも、格差は厳然と存在する。 ドキュメンタリー『映画「立候補」』(日本、藤岡利充)で奮闘する異色の立…

アベノミクス

この社会はもう続かないかもしれない。何か新しい考え方、価値観に変えていかないといけない。3・11もあり、人々がやっとそんなふうに感じ始めていた。その感覚を再びカネの魔力で封じ込めよう、というのがアベノミクスじゃありませんか。(富田克也「社会変…

老人生活

歯止めのきかないふるまい。大量の薬。過去の思い出と、他人への勝手な思い込み。今か昔か、あいまいな時間感覚。 認知症に限らず、老いれば避けられない現象だろう。 老人生活は、恐ろしく、哀しい。 アニメ『しわ』(スペイン、イグナシオ・フェレーラス)…

罪と情

肉親を失う悲しみを知らない男が、実母を装って近づいた女に親愛の情を覚えたとき、彼女は飛び降り自殺する。男を苦しませることこそが、女の復讐だった。 『嘆きのピエタ』(韓国、キム・ギドク)は、罪の変遷を問い、情を根底から揺さぶる。

小説家の幸福

小説を書くときの私は、「十分な取材をして、準備万端整って」などということがないまま、見切発車の状態でスタートしてしまうので、書き始めてかなりの間は不安です。最後の方になって、「あ、小説になった」と思えた瞬間、やっと幸福になります。(橋本治…

雨の日

雨の日の公園。男子高生と年上女性の淡い恋。シンプルなストーリーと、すがすがしい映像。 『言の葉の庭』(新海誠)は、エンディングで流れる『Rain』(作詞・作曲:大江千里、歌:秦基博)にぴったりのアニメだ。

写真、言葉、物語

失明した人々が最後に見たものは? 初めて海を見た人の表情は? 『ソフィカル―最後のとき/最初のとき』(原美術館)は、フランスの現代美術家、ソフィ カルが、写真と言葉で綴る物語集だ。

伝達

震災の教訓は、「○○を忘れない」ではなく「忘れるものだ」ということです。 (岩井俊二「人は忘れる だから原点へ」『朝日新聞』5日夕刊) 忘れるからこそ、伝え続けなければいけないものがある。

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