まともな書き手ほど、自分の著書を見るのは恥ずかしいらしい。
川本三郎が、『あのエッセイこの随筆』(実業之日本社)で、桐野夏生・篠田節子・宮部みゆきのトークショーを見に行ったときのことを書いている。
桐野夏生が「ねえ、本屋で自分の本買うの恥ずかしくない」というと他の二人も「そう、恥ずかしい」と声を合わせた。ベストセラー作家でもそうなのかと微笑ましかった。
川本自身にも似た体験がある。
ベストセラーしか置いていない我が家の近くにある本屋に何を間違ったのか拙著が一冊置いてあった。気になって散歩の途中、様子を見に行くのだが、三日たっても四日たっても売れ残っている。
仕方なく自分で買おうと思うのだが、どうしても恥ずかしくて出来ない……。
なんとも奥ゆかしい。
そして、こんな落ちがつく。
結局、一ヶ月くらいして拙著はその本屋から消えた。
生みの親にとって、わが子の行く末を見るのは、ときに楽しく、ときに切ない。