姿

mukuku2007-08-18

 ちばあきおの漫画『キャプテン』(集英社文庫)の主人公、谷口タカオは、野球少年としては落ちこぼれだった。
 名門の中学野球部にいたものの、二軍で補欠。野球をのびのび楽しもうと転校するが、名門のレギュラーだったと部員に誤解され、過度に期待される。ところが、守備練習さえ、まともにこなせない。そんな自分を恥じて、連日、神社の境内で父親の猛特訓を受ける。グラウンドでは、キャプテンのノックが日増しに激しくなっていく。
 三月。卒業間近のキャプテンから、新オーダーを発表された。4番、サード、キャプテン。そこに谷口の名があった。
 谷口は驚いてキャプテンに打ち明ける。自分には資格がない、前の中学では補欠だったと。
 キャプテンは知っていた。
「そんなことぐらいおまえが入部したときのプレイをみてひと目でわかった」
 誤解から期待されただけです。その期待を裏切らないように努力するだけで精いっぱいですと、谷口は嘆く。
 おまえはその期待にりっぱにこたえじゃないかと、キャプテンがつぶやく。
「かげの努力でな!」  
 二軍で補欠というのも谷口であり、4番でキャプテンというのも谷口である。真の姿を見てくれる人がいたのは、谷口にとって幸運だった。
 鍛錬の末にチャンスを得た谷口の奮闘は、これで終わらない。その後、新チームを率いて全国優勝を果たすのである。

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