2011-01-01から1年間の記事一覧

夢が人生だとしても…

『サヴァイヴィング ライフ ―夢は第二の人生―』(チェコ、ヤン・シュヴァンクマイエル)で描かれるように、幼少期の体験は、夢に関係しているかもしれない。 だが、影響度がわかったとしても、人は、それだけで充足するわけではない。

偽物

偽の地位、偽の絵。 狙われる側が生き残るためには、偽物を利用すればいい。 ユダヤ人がナチスから絵画と家族を守る『ミケランジェロの暗号』(オーストリア、ヴォルフガング・ムルンベルガー)は、全編、偽物をめぐる物語となっている。 偽物も使いようであ…

裏側

子どもを失った主婦が出入り業者と浮気して、自ら立ち直ろうとするが、夫も隣人も、彼女の知らないところで、不穏な態度をとっていた……。 ポツドールの『おしまいのとき』(下北沢、サ・スズナリ)は、昼メロ風のドラマから一転、善人に見えた周囲の人間が豹…

隠れた部分

自伝執筆のためのゴーストライターとして、英国元首相の滞在地を訪れた男が、真実を知るにつれて、危険な目に遭う。 『ゴーストライター』(フランス・ドイツ・英国、ロマン・ポランスキー)では、首相が記述した原稿の平凡な箇所に、一家の秘密が潜んでいた…

見えた風景

エッシャーの石版画『カストロバルバ』について、生物学者の福岡伸一が指摘している。 もしこの風景を写真に収めたとしたら、決してこのように見えることはない。見上げる視点と見下ろす視点、そして遠望と今歩いている道。これら多視点がひとつの画面の中に…

評価

過大な称賛と不必要な批判が錯綜し対立するたびに、文化は傷つき、人の気持ちもすさむように思えます。……厄介なことに人間は、千の賛辞の中の一つの罵倒をすごく気にする動物なので、その中で冷静に自分の仕事を自己評価することは至難です。……度を超した評…

信心

上から設計主義的に原発を置き、「安全」と言ってきた結果がこの惨状を招いたのに、同じように水力や風力、あるいは太陽光なら大丈夫だと言って設計主義的に進めていったら、必ず別の形での問題が出てくる。ここにまた「信心」があると思うんです。理性の限…

前衛

「『(となりの)トトロ』も『ナウシカ』も、みんな前衛映画ですよ(笑)。だから、好きですっていう人は随分経ってから現れるんです。10年ぐらい経ってから。でもその時は客が入らない(笑)。すぐ、アニメーションというのはこういうもんだ、この程度のもんだ…

否定と肯定

今わざわざ「人と人の繋がり」を真っ向から否定する主人公を書いていることに気づいたのは台本も半ばを過ぎた頃で、さすがに時代との逆行ぶりに悩みました。でも、私の中からふつふつと湧き上がる、「人に怒られるからこそ」、「人として間違っているからこ…

神の視点

地球全体の歴史から見れば、親子の確執といったレベルの出来事は、ささいなことにすぎない。 『ツリー・オブ・ライフ』(米国、テレンス・マリック)は、神の視点から一家族を見つめる。すべての光景が美しく見えるのも、神の立場ゆえか。

境界線

見る者と見られる者、カメラを向ける者と向けられる者、その断絶をだれよりも意識しながら、なおかつ、あえて断絶を直視しようとする。作品というのはその罪深い行為からしか生まれない。 (川本三郎『クレジットタイトルは最後まで』中公文庫) 境界線を意…

異常事態でも

パニック映画でありながら、『モンスターズ/地球外生命体』(米国、ギャレス・エドワーズ)はドキュメンタリータッチ。 モンスターの登場する場面は極力抑えられ、人間ドラマもささやかなもの。だからこそ、現実味がある。 異常事態に陥っても、人は、朝か…

゙だからこぞの論理

日本は原爆の被爆国だからこそ、原発大国になったという論理もある。 原爆を受けた研究者が平和利用や米国への恨みで原子力に取り組んだり、被爆者が生命のエネルギー源として救いを求めたりといっだだからこぞ論である(『「被爆国が原発」の論理』朝日新…

出来事のあとで

「オール読物」8月号では小説の希望をテーマに五木寛之さんと浅田次郎さんが対談している。興味深いのはここでも時代の風潮に流されずに書くことを強調していること。浅田さんは震災後も「自分の今まで書いてきたものと同じものを書こうと言い聞かせました」…

世界の映し方

ドキュメンタリーに関しては、世間一般で行われているように、計画的に作ることに強い違和感を抱いてきた。綿密に計画を立てて失敗を回避しようとすればするほど、逆に失敗する、つまり作品がつまらなくなるのではないかと感じ続けてきた。なぜならドキュメ…

タブー

社会はルールや慣習を作り、個人にタブーを押しつけてくるのですが、自分の生き方をそこに合わせても、与えられた命を使い切ったことにはならない。(「草間彌生が語る仕事」『朝日新聞』24日) 個人の内部にタブーはない。 何をなしとげるかということにも。

どこまでが真実?

才能もないハッタリ屋と思われた自称映像作家が、金に物を言わせて、人をかき集め、著名アーティストを動員して宣伝し、既成画家のコピーをいじっただけのような作品を大量に掲げ、初の個展で、一夜にして、売れっ子アーティストになってしまう。 『イグジッ…

坂道

1960年代を舞台にした父の脚本を息子が演出したアニメ『コクリコ坂から』(日本、宮崎吾朗)。 建物の取り壊しや父親の正体をめぐって、高校生の男女が葛藤するものの、すべてが、あっさり片付いてしまう。 「古くなったから壊すというなら君たちの頭こそ打…

森の創造

森を創るのは、短時間ではできない。 木が根付くまで、多くの実を埋めなければならない。 男は、それでも埋める。生命の源は、持続力なのだ。 やがて、木が根付く。たくさんの木が茂る。 森の誕生は、人の心も変える。 『木を植えた男』(カナダ、フレデリッ…

世界の実態

敵か味方か。不義か正義か。 劇場版『鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星』(日本、村田和也)のキャラクターや民族は、区別がつけにくい。 だが、混然とした状態こそが、世界の実態なのだ。

いつもどこかで

世界のどこかで、いつも何かが起きている。災害も抑圧も、特別なことではない。 そのことに気付けば、一国のある事件にも、過剰反応することはなくなるだろう。 『世界報道写真展2011』(都写真美術館)では、ハイチでの大震災や、バンコクでの反政府暴動な…

読者設定

『村上ラヂオ』は20代の女性向け雑誌『アンアン』に連載されたエッセイ集だが、執筆者の村上春樹は、その種の読者層についての知識を持ち合わせていなかった。 だから面倒なことは抜きにして、とにかく自分の書きたいことを書きたいように書く、それだけを心…

死者を囲んで

井戸掘り職人だった祖父の法事。孫たちが集い、座敷で語り合う。 弘前劇場の代表作『家には高い木があった』(下北沢、ザ・スズナリ)。国内では7年ぶりの再演だ。 過去の公演時よりも、孫たちの年齢が高めに設定されている。死を遠景にしつつも、中年のわい…

三人の密室劇

室内がほとんど。しかも登場人物は三人だけ。 場面転換の醍醐味を封印して映画を成功させるのは難しいが、『アリス・クリードの失踪』(英国、J・ブレイクソン )は、及第点と言っていい。 刑務所仲間の男二人が金持ち娘を誘拐して大金をせしめようとする。…

奇跡のような

両親の離婚で鹿児島と福岡に離れて暮らす小学生の兄弟が、電車に乗って再会し、開通したての九州新幹線を見る。 『奇跡』(日本、是枝裕和)は、子どもたちが生き生きと描かれているばかりではない。彼らを取り巻く大人たちも、過不足なくとらえられている。…

本当の気持ち

果たしてネットに公開する文章で人は「本当の気持ち」みたいなもの(書いててすごくロマンティックな気持ちになるね)を書くことってできるのかな? 閉じられたノート、どこにも接続されていない場所にしか生息できない成分がもしかしたらやっぱりあるのじゃ…

パーソナリティー

橋本 『桃尻娘』を書くときに、こっちが二十七、八じゃないですか。主人公は十五だったでしょう。何が違うかというと、男と女が違うと考える前に、彼女は俺より十二年若いんだ。とすると、俺が知っている十二年分、彼女が知らないんだな。そういう引き算をし…

嘘のリアリティ

「嘘八百のリアリティ」のポイントは、作中の設定やキャラクターの感情といった要素に、どこか現実と接点のある部分をつくっておくことだ。 そして、その「現実の接点」として、家族という要素は非常に大きな役割を果たしている。 (富野由悠季『「ガンダム…

都市

最近私が思うのは、゙正体性゙にも゙同一性゙にも、あまり縛られないほうがいいんではないかと。なぜなら人間には、いくつもの゙顔゙があって当然だし、同一性にこだわると、実は非常に窮屈で、なにか金縛りにあったようになってしまうからです。 ……「都市は人間を…

いい写真

「プラハ侵攻1968」などで知られる写真家のジョセフ・クーデルカは、語っている。 「アート系、報道系といった区別は意味がない。写真はあくまで写真。私は、ジャーナリズムを追求しすぎて一つのメッセージに陥ることを危険視します」 「写真には2通りしかな…

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