読者設定


『村上ラヂオ』は20代の女性向け雑誌『アンアン』に連載されたエッセイ集だが、執筆者の村上春樹は、その種の読者層についての知識を持ち合わせていなかった。

 だから面倒なことは抜きにして、とにかく自分の書きたいことを書きたいように書く、それだけを心がけている。……でも逆に僕にしてみれば、読者を設定することを最初から放棄しているぶん、素直に自然に文章を書くことができるみたいだ。……おにぎりで言えば、お米を選んで注意深く炊き上げ、適当な力をこめて簡潔にぎゅっと握る。そういう風に作られたおにぎりは、誰が食べてもおいしいですよね。文章も同じで、それがしっかり「握られ」てさえいれば、性差や年齢差を越えて、そこにある気持ちはわりにすんなり伝わっていくものではないかと、まあ楽観的に考えています。
                  (『おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2』マガジンハウス)

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