2020-01-01から1年間の記事一覧

青春という枠組み

「欅坂46」の2軍的位置づけだった「日向坂46」の躍進。作られた枠組みでの発展とはいえ、道のりや葛藤は、アイドルたちの心の内では決して虚像でない。信じたからこそのめりこめるし、信じなければ、わざわざアイドルになろうは思わないだろう。ドキュメンタ…

ジャーナリストとは何か

第2次大戦前、唯一繁栄を続けたソ連。『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(ポーランド・イギリス・ウクライナ、アグニェシュカ・ホランド)では、若きジャーナリストが妨害に屈せず、隠された姿を明かす。極寒の雪原で目にしたのは、飢えに苦しむ民衆だ。…

濃密な愛

あまりにも感情過多がゆえに、人前はばからず、極端にふるまう妻。精神病院に入ってからも、彼女が彼女でなくなることを悔いた夫は、退院後の妻に本来の姿を取り戻すよう要求する。 『こわれゆく女』(米国、ジョン・カサベテス)では、執拗に長い場面を連ね…

核抑止の決断

『ジョーンの秘密』(英国、トレバー・ナン)の老女が、若かりし日に手掛けたことには、相応の使命感があった。スパイ容疑で逮捕された彼女は、核兵器開発機関で働いていたときに機密を知る立場にあった。米国の核政策を抑止するとすれば、ソ連が同等の技術…

見えない恐怖

暴君のような男が女に遺産を残して自殺する。ところが、彼が動いている痕跡が次々発覚。彼女は、生涯、おびえ続けなければいけないのか。 特殊スーツを使った実態があらわになる後半よりも、『透明人間』(米国、リー・ワネル)は、姿がまったく見えない前半…

個人的な戦争

遺作にして異色作。雑文でもあり、映像実験でもある。『海辺の映画館』(日本)は、故郷・尾道の古びた映画館を舞台に、大林宜彦が変遷する商業映画のスタイルを活用しつつ、戊辰戦争から原爆投下前夜までの戦争の歴史をたどる。 戦争のとらえ方は、監督個人…

劇場という場

さえない劇作家と、彼に振り回される女。二人の限りある時間を綴った『劇場』(日本、行定勲)は、実在の場所をモデルにして役者を使う映像によって、原作の古風な感覚に、いらだちと、心地よさが、付与されている。 別れるべくして別れた二人。再開の場は、…

人間の姿

『リトル・ジョー』(オーストリア・イギリス・ドイツ、ジェシカ=ハウスナー)では、実験室で作られた花の花粉を嗅いだ人々が、みな楽天的な性格になる。くよくよ悩んでいたことがどうでもよくなり、我慢していたことからも脱却する。 母も息子も、研究所員…

AIの未来

人間の指示に忠実なAIは、人間の指示に左右される。AIで可能な範囲が広がるほど、指示の内容が重要になる。 宮藤官九郎作の短編ドラマ『JOKE~2022パニック配信!』(NHK)でスマートスピーカーやロボットを使いこなすのは、漫才タレントだ。相方ほどの活躍…

娘に託したもの

娘が子役のオーディションに受かるために奔走する。『ベリッシマ』(イタリア、ルキノ・ヴィスコンティ)の母親は、あまりにも饒舌で、あまりにもエネルギッシュ。情熱の裏には、うだつの上がらない生活を変えたいという必死の思いがある。 審査時の失敗が不…

母と子

自力で働くことも、子どもに教育を受けさせることも、かたくなに拒む母。それにもかかわらず、『MOTHER マザー』(日本、大森立嗣)の子どもたちは、ずっと母親についていく。 母と子の間には、世間一般の幸福家族にはない結びつきがあった。少なくとも、母…

メダルの代償

『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』(ポーランド・ドイツ・フィンランド)は、ロシアの新体操選手、マルガリータ・マムーンが金メダルを獲得するまでのドキュメンタリー。 指導者イリーナ・ビネルの叱責は、選手の人格を破壊しかねない…

Go To

Go Toトラベル」キャンペーンは、実は「Go Toトラブル」キャンペーンだ。そのような指摘が、自民党の内部からさえ出てきているという。(「浜矩子の経済私考」-『週刊金曜日』7月31日号) 利用する観光客も、受け入れる宿泊施設も、本当に援助を必要とする…

歌の力

『ワイルド・ローズ』(英国、トム・ハーパー)が心を引きつけるのは、刑務所帰りのシングルマザーがカントリー歌手を目指して奮闘するという物語自体ではない。逆境を乗り越えるだけの説得力は、主演・ジェシー・バックリーの歌の力にある。

無名の人々

出発点は、橋の落下事故で亡くなったような無名の人々(本作では、少女の敬愛する漢文教師が犠牲になった)への思いだろう。『はちどり』(韓国・米国、キム・ボラ)は、1990年代の世相を取り込みながら、生き方を模索する少女の日常を新鮮な目で綴っていく。…

レミングたち

7月17日 道路の渋滞も海辺の混雑も、考えてみれば異常なことだったのだろう。心身を害しないことのほうが、よほどおかしかったのだ。 筒井康隆『幸福の限界』(『おれに関する噂』新潮文庫所収)には、幸福ごっこに酔いしれる家族が、人で一杯の海で泳ぐうち…

適度の時代劇

資金調達の手段は、もはや銀行だけではない。銀行員にしろ、証券マンにしろ、かつてほどの巨大な権限があるわけではない。続編となるドラマ『半沢直樹』(TBS)は、前作以上に時代劇調の演出が濃厚で、業務のやり取りも、現代とは、ややずれがある。だが、人…

軽い気分で

大学生カップルが、映画関係者に会えるという週末の体験をきっかけに別々の道を目指すことになる。『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』(米国)は、ウッディ・アレンらしい皮肉な恋愛コメディー。自身は出演せず、若い俳優たちに動きを任せたのは、正解…

銭ゲバの決着

病を治療する金がないために母を失った少年。金を盗み、敬愛する知人を殺し、一線を越えてからは、金にのみ執着し、邪魔な人間はいとも簡単に殺害していく。犯罪を重ねても露見することはなく、悪夢に脅かされるだけだ。 ジョージ秋山『銭ゲバ』(幻冬舎文庫…

選ばれなかった者

「気になったのは、小野泰助氏の躍進と、桜井誠氏が前回より6万票以上も票数を伸ばしているという事実だ」(雨宮処凛「宇都宮氏、山本氏らとの論戦がテレビで放映されていたなら」―『週刊金曜日』10日号) 現職の強い都知事選で小池百合子氏が連勝したのは、…

奇異に見えても

『サンダーロード』(米国、ジム=カミングス)の警官は、愛娘と接しているときを除けば、職務中も、人との対話中も、奇異なふるまいばかりしているかのように見える。そのように至ったのは、神経の繊細さ故だ。職業柄、数々の痛ましい現場を目撃したことも…

空間の評価

無秩序のまま、何代にもわたって引き継がれた空間。性差も上下関係もなく、変てこな住人同士の干渉もない。『ワンダーウォール 劇場版』(日本、前田悠希)で学生が職員たちに要求するのは、学生寮の存続だ。 投資効果からすれば、老朽化した寮はすみやかに…

それぞれの物語

『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』(米国、グレタ・ガーウィグ)のみずみずしさは、古典を今なぜ取り上げるのかという明確な姿勢があり、時代を行き来する構成の工夫も、巧みだからだろう。群像劇の形をとることで、様々な生き方の提示にも…

医師の晩年

言語化しきれていない言葉も、欲している思いも、いっさいを受け止める医師。患者から絶大な信頼を得ている精神科医が、高齢とはいえ、なぜ突然引退したのか。 『精神0』(日本・米国、想田和弘)には、認知症気味の妻と過ごす姿がある。二人だけの時間をよ…

政治の希望

一議員を17年間追い続けた地味なドキュメンタリーながら、『なぜ君は総理大臣になれないのか』(日本、大島新)は、客席の入りがいい。 この映像では、政策や理念の紹介というよりも、選挙活動を通じての家族や地元民とのかかわりを中心に、議員の人柄や姿勢…

生きる執念

男に迎合するわけでもなく、同性のルームメートに感化されるわけでもない。『ANNA/アナ』(フランス・米国、リュック=ベッソン)のヒロインは、故国でDV男と離れてから、米ソ双方の諜報機関で殺し屋として、成長していく。 頼れるのは自分のみ。ファッショ…

映画の復活

政情によって映画を撮ること自体が禁止され、上映さえもまともにできない国もある。スーダンで市民のために映画館を復活されようと老いた映画人が奮闘する『ようこそ、革命シネマへ』(フランス・スーダン・ドイツ・チャド・カタール、スハイブ・ガスメルバ…

人間たち

加害者、同級生、ネット住人……。だれもが残虐で、人身への攻撃はエスカレートするばかり。『許された子どもたち』(日本、内藤瑛亮)は、被害者の遺族でさえ、執拗な冷酷さを緩和しようとはしない。少年が被害者の両親に謝罪をしたあと、暴力を再発する終盤…

上質の娯楽

歌、笑い、スリル……。ハワード・ホークスは、見せ場を知っている。アフリカで動物の生け捕りをする多国籍チームのすったもんだを、『ハタリ!』(米国)は、短いエピソードのつなぎ合わせで、演出する。 ストーリーの起伏だけを好む観客には、受けがよくなく…

青年の物語

理想に燃えた青年将校が、現実の世界で仲間を殺し、嫌っていた皆殺しに加担。統一国を作る望みを果たせぬまま、本国やアラブの支配層の企みに利用された挙句、任務を説かれる。『アラビアのロレンス』(英米、デヴィッド・リーン)は、戦地における青春ドラ…

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