2017-01-01から1年間の記事一覧

世界の砦

『家族はつらいよ2』(日本、山田洋次)では、高齢ドライバーの是非、突然死のすったもんだなど、高齢者を取り巻く現代の問題が、目ざとく取り上げられている。 同級生との出会いも、小津映画的な悲哀に行き着くわけではない。あくまでドタバタ劇を貫いて、最…

人生巧者

俗世にまみれた純粋な青年の割り切れなさ。『カフェ・ソサエティ』(米国、ウッディ・アレン)は、愛の悲喜劇を軽妙に語って俯瞰するが、さりとて、そんな人生を全否定するわけでもない。滑稽な恋愛遍歴を堪能するのも、人生の巧者なのだ。

ヨーロッパの英雄

エロビデオとヨーグルト好き。せっかくの怪力もATMの強盗に使うだけというさえない男の孤独な日常物と思いきや、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(イタリア、ガブリエーレ・マイネッティ)は、後半からタイトルどおりのヒーローものに一変。燃え上がる車の中か…

愛すべき者

周囲が幸福をつかんでいくにもかかわらず、彼だけが置いてきぼりを食らう。 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(米国、ケナス=ローガン)の男の不器用さをとがめるべきではない。繊細で頑なな彼は、他者の傷心を代わりに引き受けた愛すべき存在なのだ。

ドラマの生まれる場

『やすらぎの郷』(テレビ朝日)は、倉本聰による円熟の脚本を従えて、名優がそろった。 テレビ人同士が俗世間を離れて集った理想の老人ホームも、住んでみれば、すったもんだは避けられない。 どこで暮らせど人間は人間。大勢集えば、必ず衝突。 だからこそ…

一枚の世界

何枚も見る必要はない。一枚の絵に世界が凝縮されている。 『ブリューゲル「バベルの塔」展』(東京都美術館)では、その一枚に、人が群がる。

時空を超えて

『PARKS パークス』(日本、瀬田なつき)は、世代の異なる人々の物語だ。舞台の井の頭公園や吉祥寺に、人の記憶や音声が集う。 時空を超えた場は、世界のあちこちにあるはずだ。

健康な作為

映画を撮ることを禁じられた監督が、タクシーと乗客とのやり取りというそれだけの設定で、コミカルかつ、スリリングで、しかも思いがけない展開に持ち込む。 作為的な映画に見せないようにしつつ、明らかに作為的な映画『人生タクシー』(イラン、ジャファル…

生きている者

孤独な演劇少女が亀と出会って、タイムスリップ。震災で消え去った演劇仲間と再会し、架空の台本の世界を再現する。渡辺源四郎商店の演劇、『鰤がどーん!』(ザ・スズナリ)は、そんな話だ。 劇中では、高校演劇のコンクールの同じ場面が繰り返される。同じ…

飛ぶカウボーイ

老いても宇宙飛行の夢を実現し、己のプライドを失わない。 人工衛星修復のために宇宙へ飛び立つ『スペースカウボーイ』(米国、クリント=イーストウッド)の頑固老人たちは、すこぶる迷惑だが、すこぶるかっこいい。 映画界のカウボーイこと、イースウッドは、…

なんてったって嗅覚

秋: 基本的に多分、世の中の人から見るぼくはすごく策士で、すごく計算して仕掛けている感じに見えるのかもしれないけど、そんなことはほとんどないんだよね。なぜなら、高校生のアルバイトから始まって、次に何か面白そうなことがあるったらそこにただ浮遊…

永遠の画家

描く喜び。 想像のエネルギー。 『草間彌生 わが永遠の魂』(国立新美術館)の絵画たちは、どれもが巨大で、情熱的だ。

それぞれの希望

再放送された山田太一の連続ドラマ『それぞれの秋』(BS- TBS)は、父が脳腫瘍に倒れたことで、バラバラだった家族が、寄り添うようになる。 語り手の次男をはじめ、それぞれに二面性があるが、犯罪を起こすほどのふてぶてしさはない。弱さゆえに本音に徹す…

小説の語り

柴崎 政治とか社会の状況が語られるときって、特に目立つ場では同じようなロジックでばかり語られやすいですよね。それとは何か違うもの、違う回路や尺度、考え方を持ち込んだり、穴を開けるとか別の場所を開くことができるのが小説の醍醐味だと私も思います…

この世のミニチュア

大惨事後、人類のいなくなった世界。ローリ=ニックスとキャサリン=ガーバーがミニチュアで作るのは、そんな光景だ。 建物や部屋は、使う人間が生きていることで、生かされる。人間が死ねば、ただの残骸だ。 『ナショナル ジオグラッフィク』4月号に掲載さ…

がんばれのプレイ

『がんばれ!ベアーズ』(米国、マイケル・リッチー)は、弱小野球チームが奮起して快進撃を続けるという、いわゆるサクセス・ストーリにとどまるものではない。飲んだくれの監督を目覚めさせる子どもたちの純粋さや、少年少女に潜む可能性を、野球に打ち込…

ミュージカルの夢

哀しいラブストーリーだが、愛すべき映画。『ラ・ラ・ランド』(米国、デイミアン・チャゼル)は、新旧ミュージカルへのオマージュだ。 夢をかなえるには、もう一つの夢を捨てなければならない。だが、それを不幸とは言えないのだ。

叫び

人は、番号ではない。その他大勢の一人でもない。『わたしは、ダニエル・ブレイク』(英国・フランス・ベルギー、ケン・ローチ)には、労働者個人の主張がある。 ダニエルは、病気で大工の職を失う。技能がないために転職先もないし、保証金さえ打ち切られよ…

アメリカン・ドリーム

『SING シング』(米国、ガース・ジェニングス)のメンバーは、落ちこぼれぞろいだ。 支配人は、資金不足で劇場が閉館間近。オーディションに集う動物たちも、意欲だけあって、うだつの上がらない者ばかりだ。それぞれ事情を抱えるが、みんな才能があった。…

日本人の快感

安倍政治の本質は「勘ぐらせる政治」である。これは特定秘密保護法や共謀罪と連動して、いずれ市民に刃が向けられる。権力に対する自発的服従を生み出す」(中島岳志『安倍の「勘ぐらせる政治」』(『週刊金曜日』3月24日号) 安部政治に限らない。責任の所在…

少女の死

観る者にイライラ感をもたらすほど煮え切れない少年。『牯嶺街少年殺人事件』(台湾、エドワード・ヤン)は、彼が最愛の少女を刺殺するまでの背景を長尺で描出する。 日中の影を踏まえつつ、少年少女の青春と、台湾の世相を浮き彫りにしただけではない。原理に…

ゲゲゲの伝言

『追悼水木しげる ゲゲゲの人生展』(松屋銀座)は、漫画の原稿以外にも、スケッチや妖怪像などが集い、水木の旺盛な好奇心と創作の痕跡が一望できる。 全体像から伝わるのは、存在する者の殺伐とした死でもなければ、おどろおどろしさでもない。たくましい生…

魂の深さ

かつて水俣では、学校帰りの子どもが道ばたのおばあちゃんに「こんにちは」と言うと、おばあちゃんはその子の目をじっと見つめて、この子は魂の深か子じゃねえ」と言って、魂をほめてあげたものです。社会的な位ではなく、魂の深さが人の評価の対象だったの…

差別に向けて

白人と黒人。禁じられた異人種の婚姻を認めさせたのは、二人のひたむきな愛と、弁護士の正義感だ。 『ラビング 愛という名前のふたり』(英国・米国、ジェフ・ニコルズ)は、差別政策のもてはやされる現代にこそ、訴えるものがある。

旅心

台北・高雄・沖縄本島。 『百日告別』(台湾トム・リン)は、交通事故で最愛の人を失った男女それぞれが、死者とゆかりのある地を訪ね歩く。 エピソードは定番だが、爽快な映像が旅心を誘う。

汚職の地

腐敗する国家で成功するには、汚職に手を染めるしかない。 『エリザのために』(ルーマニア・フランス・ベルギー、クリスティアン・ムンジウ)は、娘思いの父が、思いゆえに空回りする現実を冷徹に見つめる。 登場する家族は、だれもがいやな部分を持つが、…

偉人

カメラに向けて、つぶやきつづける種苗店主。郷土史の造形もさることながら、津波で被害を受けた陸前高田の実状を伝えるため、外国語を学んで体験談を出版するという強者だ。 『息の跡』(日本、小森はるか)は、無名の偉人の姿をひたすら撮っている。偉人は、…

作家の姿

『又吉直樹 第二作への苦闘』(NHK)で映し出される作家の姿は、あまりにも古風で、あまりにもストイックだ。 だからこそ新鮮で、人を引きつけるのだろう。

名キャスター

インターネットで情報を得る人びとが増えているが、感動的に共感しやすいものだけに接する傾向が見られ、結果として異なる意見を幅広く知る機会が失われている。そして異質なものに触れる機会が減ることで、全体を俯瞰したり物事の後ろに隠されている事実に…

通過点

それぞれ背景を持つ少女たちが、自身でキャラクターを作り上げ、夢への通過点として結集したアイドル・グループ。『悲しみの忘れ方 DOCUMENTARY of 乃木坂46』(日本、丸山健志)は、彼女たちの紆余曲折を母の視点で見守る。 過去の挫折を克服し、まだ見ぬ未来…

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