2017-01-01から1年間の記事一覧

光の当て方

近年は癒し系家族ドラマに徹していた是枝裕和だが、『三度目の殺人』(日本)は、残忍な殺人犯のドロドロした法定劇だ。 証言を目まぐるしく変えて、弁護士を翻弄する男は、真の悪人なのか。被害者の遺族との関係を知るうちに、合理主義者の弁護士に迷いが生…

救うための戦い

『ダンケルク』(米国、クリストファー=ノーラン)は、ドイツ軍に追い詰められて孤立した英仏連合軍の兵士を、民間船の協力まで得て、英軍が救い出す。 命を捨てるのでなく、維持すること。西洋の健全な理念が、貫かれている。

中年の希望

妻の連れ子とはうまくいかず、職場では左遷。前妻との実子との再会もしにくくなる。 再婚後、理想の父親を演じようとした男が、『幼な子われらに生まれ』(日本、三島有紀子)では、次々と苦難にさらされる。 先送りするほどの時間はなく、開き直るには余生…

ゾンビと人間

『新感染 ファイナル・エクスプレス』(韓国、ヨン・サンホ)で、高速鉄道の中という逃げられない場所で、乗客が集団のゾンビに襲われるのは、もちろん怖いが、自分が生きるためにほかの乗客を犠牲にする男も、逃走した乗客を抹殺しようとする軍も,怖い。 …

滅びの遺伝子

『戦慄の記録 インパール』(NHK)からうかがえる現場指揮官の無謀さを非難することはたやすい。ただ、根底では、撤退して生き残るよりも、死して滅びることを好むという日本人の意識が働いている。作戦を指示する者も、従う者も、まるで失敗するために動い…

再現

失われたがゆえに再現された景色と感情は、愛おしい。 『草原に黄色い花を見つける』(ベトナム、ビクター・ブー)には、豊かな自然があり、弟との愛憎があり、幼なじみの少女との別れがある。

見えるもの

質素なアトリエから生まれた細長い彫刻。『ジャコメッティ展』(国立新美術館)で明かされるのは、彼に見えた世界であり、彼にとっての現実である。

米国映画の結集

全編、音楽に合わせて、動く人間たち。『ベイビー・ドライバー』(米国、エドガー・ライト)は、ピカレスクロマンであり、青春映画でもある。融合が別のものを育むが、根底には、米国映画の伝統がある。

日常の自由

様式美にこだわらぬごつごつ感。『写狂老人A』(東京オペラシティアートギャラリー)、『センチメンタルな旅 1971−2017−』(東京都写真美術館)は、完結しない荒木の膨大な写真群が、自由な日常性を実感させる。

等身大のヒーロー

まじめだが、空回り。ヒーローになりたいが、心身とも成長しきれていない。『スパイダーマン ホームカミング』(米国、ジョン・ワッツ)は、発展途上の高校生がアベンジャーズ入りを目指して奮闘する青春ストーリーだ。 強靭だが、負荷がかかると切れてしま…

純愛の完結

『海辺の生と死』(日本、越川道夫)は、島尾敏雄・ミホ夫妻の小説と現実を混ぜ合わせた世界である。特攻による死を控えた若き隊長と、自決の準備をしていた島の女。二人の純愛は、戦時中に完結していた。戦後の夫婦生活は当時の幻影を追い求めるだけにすぎ…

10年後の世界

『十年』(香港、クォック・ジョン、ウォン・フェイパン、ジェボンズ・アウ、キウィ・チョウ、ン・ガーリョン)は、香港の若手5人が、自国を風刺したSFオムニバス。現実の延長線にある物語は、どれもリアルだ。同様の企画は、他国でも成立するだろう。

中年の道

『カーズ クロスロード』(米国、ブライアン・フィー)は、中年の生き方を指南する。 天才と言われたレーシングカーのマックイーンも、もはや若くはない。次世代レーシングカーに迫られ、かつての仲間たちは次々と引退。もはやスピードではかなわなくなった…

多様な世界

紛争・環境問題・スポーツ……。『世界報道写真展2017』(東京都写真美術館)の写真が明らかにする世界の現実は、一つではない。

神秘であれ

人の立ち入りが禁じられている孤島、沖ノ島。 『沖ノ島 神宿る海の正倉院』(日本橋高島屋)で藤原新也がとらえた風景は、天候不順の中、わずかに解放された森の姿だ。 神秘的であるべき地は、いつまでも神秘的でなければならない。

彼女たちの奥で

妄想癖あるいは自虐的。どちらのタイプも付き合い難いが、『歓びのトスカーナ』(イタリア・フランス、パオロ=ビルツィ)で精神治療施設を飛び出したのは、そんな女たちだ。 二人の行動は煽情的だが、奥底には容易に癒せない心の痛みがある。

少女の冒険

魔女ではない少女が万一魔法を手にしても、使いこなすのは容易でない。災厄を招くこともある。 『メアリと魔女の花』(日本、米林宏昌)の少女が、恐れを知らぬがゆえに手にした魔法で友達を助け、魔女たちの危険な計画を阻止する。上手な使い方を知るには冒…

寓意の広がり

ユーモラスでグロテスク。魚、花、動物など、象徴的な物体を結集させた風変わりな画が、『アルチンボルド展』(国立西洋美術館)で披露されている。 見慣れた物の組み合わせでありながら、画家の意図は、今も謎のままだ。

脆弱さは政治家だけではない

持ち上げるか叩くだけの若者論、経済を視野に入れない無責任な社会システム論、中年軽視の理想論……。北田暁大・栗原裕一郎・後藤和智『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』 (イースト新書)は、現代リベラル派知識人の脆弱な言論を、3人の論客が検証する…

演劇論の演劇

青年団『さよならだけが人生か』(吉祥寺シアター)は、工事現場に集う人間たちの秘められた思いや行為を、登場人物の入れ替わりやセリフの含意から浮き上がらせていく。 構成も演出も、緻密に計算。平田オリザの演劇論を、明快に実行している。

戦場の懐

戦場で人を撃つという選択もあれば、だれも撃たず、敵味方を関係なしに救助に徹するという選択もある。 『ハクソー・リッジ』(米国・オーストラリア、メル・ギブソン)の衛生兵は、砲弾の飛び交う戦場で、敵味方関係なしに人命救助に徹する。米国映画の英雄に…

新境地の是非

変わった人物に生活をかき回されたおかげで、新たな境地を迎えるという物語自体は、珍しいものではない。それでも、『ありがとう、トニ・エルドマン』(ドイツ・オーストリア、マーレン・アーデ)の父の奇行は、尋常なものではない。娘の仕事場にさえ、変装…

物語と小説

村上 そういう物語の「善性」の根拠は何かというと、要するに歴史の重みなんです。もう何万年も前から人が洞窟の中で語り継いできた物語、神話、そういうものが僕らの中にいまだに継続してあるわけです。それが善き物語の土壌であり、基盤であり、健全な重み…

奏でる者たち

耳の聞こえない両親の愛と、彼らを見つめる娘たちの葛藤。 ドキュメンタリー『きらめく拍手の音』(韓国、イギル・ボラ)は、心の声が聞こえ、音の貴重さを実感させる。

世界は写真

写真であり、絵画でもある。日常のスナップでもあり、ファッションのショットでもある。『ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展』(Bunkamura ザ・ミュージアム)の写真群は、淡いようで、心地よい。自宅近くの風景でさえ、着眼点と技法次第…

画家の死

社会主義政権の圧政で、地位を奪われ、不遇の前衛画家、ブワディスワフ・ストゥシェミンスキ。アンジェイ・ワイダの遺作『残像』(ポーランド)は、画家の後半生を追いつつ、過度な盛り上げや脇役の誇張を避け、シンプルな語りに徹している。それでいて、画…

感情のガイド

目が見えなくても、映画は楽しめる。ただ。情景や動作の説明が必要だ。役目を追うのが、音声ガイドである。『光』(日本・フランス・ドイツ、河荑直美)は、音声ガイドのヒロインが、伝えることに悩みつつ、奥底の感情に目覚めていく。

開場

恋愛劇であり、表現論でもある。 又吉直樹『劇場』(新潮社)は、どちらの読者にも開けた小説なのだ。

自分の身は自分で

マスコミ、学校関係者、人権弁護士……。人を守るべき立場の者が、事件の一面しか知らぬまま、教師を責め立てていく。 モンスターペアレントの策略によって、いじめ教師のレッテルを張られた小学校教師の冤罪。福田ますみ『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の…

愛情物語

ハリウッドの黄金期を支えた絵コンテ作家とリサーチャーの夫婦。たとえ名前が表に出なくても、彼らのアイデアや調査が多くの名作を生んだ。 ドキュメンタリー『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』(米国、ダニエル・レイム)は、二人の功績だけ…

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