2018-01-01から1年間の記事一覧
五反田団『うん、さようなら』(アトリエリコプター)は、女優たちが、老人風のメイクをするわけではなく、素のままで老人たちのすったもんだを見せる。 おばあちゃんも女子高生も、本質は変わりない。違いは、体の動きだけなのだ。
30歳目前のキャリア女性が、公私ともに、行き詰まりを感じて、仕事をやめて、仮住まいをしたアパートの住人に託された日記から、もう一つの人生を知る。 『29歳問題』(香港、キーレン=パン)は、典型的な転機ドラマだが、しゃれた映像が、人生のワクワク感を…
モーテル暮らしで家もないし、母親もだらしないが、陰で見守る管理人にも助けられ、少女は、他の貧しい子どもたちと楽しく過ごす。 疑似ユートピアも長くは続かない。母から引き離され、よその家に預けられようとした少女が、脱走して、向かった場所は……。 …
庭の木々や虫たちも愉快だし、訪れる人間たちも、面白い人ばかりだ。 『モリのいる場所』(日本、沖田修一)は、画家本人が家の外へ出なくても、変化に富む作りになっている。居心地のいい箱庭世界が、宇宙にもつながるという遊びもある。
光州事件のさなか、現地に潜入した外国人ジャーナリストと、彼を送り届けたタクシー運転手。二人の活躍がなければ、軍による民衆の制圧が明るみになることもなく、もっと多くの死傷者が出たろう。 『タクシー運転手 約束は海を越えて』(韓国、チャン=フン…
憲法9条を記した記念の石碑は、沖縄の七つのほか、本州に11ある。(伊藤千尋「「9条の碑」を歩く」――『週刊金曜日』5月11日号) 条文公布の意義、建立への思い……。なおざりにすべきではない。
風景画は、想像の刺激剤だ。 描かれていない景色や空気までも、連想させる。
イスラエルに暮らす兄弟の家族。仲睦まじい一家だが、ポーランド出身の兄弟には、ユダヤ人収容所時代のいまわしい記憶があった。教師が聞き出そうとするが、兄弟の態度は対照的だ。兄は、どこまでも口をつぐみ、弟は、やむなく重い口を開く。いつかは、伝え…
イタコを訪ねたる女と、イタコとの奇妙なやり取り。 渡辺源四郎商店『いたこといたろう』(ザ・スズナリ)は、二人だけの芝居ながら、シリアスと笑いが二転三転、最後まで緊迫感が途切れな い。 互いの口寄せから、死者の声が生きている者を力づける。
横尾 いろいろあるけど、勇気は大事だと思うんですよね。それは自分の作品を破壊する勇気なんですよ。破壊しないと創造が生まれないんです。僕は映画を観ても、作り変えちゃうんです。……人の作品をピカソのマネやベラスケスのように悪意を持ってオマージュす…
そこに、その人がいるだけではない。 いる世界に遊びがある。 物語がある。
第三者の介入する裁判で、被害者遺族の思いが十分に遂げられることはない。被告が無罪放免となれば、なおさらだ。 『女は二度決断する』(ドイツ、ファティ=アキン)では、夫と息子を殺された女が、実力行使に踏み切る。 彼女の行為を断罪すべきなのか? 決…
路地・老人・猫・魚。『港町』(日本・米国、想田和弘)の舞台・岡山県牛窓町は、異界の地でありながら異界ではない。老婆のつぶやきも、漁師の手さばきにも、人の豊饒な歴史を感じさせる。
世界を揺り動かす強大な軍事力を持つ米国。もう一つの武器は、マスメディアだ。メディアは、戦争を推進できるが、歯止めをかけることもできる。 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』 (米国、スティーブン=スピルバーグ)のワシントン・ポストは、ベトナ…
僕はもう「思想を持たない思想」だから。生半可な思想を持ってしまうと、その思想と共鳴した人間としか意思の疎通ができない、それならば思想は要らない。 そもそも絵画に思想なんか必要ないわけですよ。実際にセザンヌみたいに、林檎の絵とビクトワール山の…
迎合的な和平交渉か、覚悟の要る徹底抗戦か。 『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(英国、ジョー・ライト)は、第2次世界大戦下、ギリギリの選択を迫られた新しい指導者の苦悩を、若い秘書の視点と、鮮明な映像で見せている。 焦点を…
90歳だが、いたって健康。気難しやで独り身だが、なじみのカフェやバーがあり、そばには、彼のことを気遣う仲間たちがいる。歌も演説も、自由気ままに、やらせてもらえる。 『ラッキー』(米国ジョン=キャロル=リンチ)の晩年は、老人の理想像だろう。ラス…
『ニッポン国VS泉南石綿村』(日本、原一男)では、アスベスト訴訟をめぐり、住民・原告団長・弁護団・厚労省が、それぞれの立場で活動する様子が映し出されている。当然、見解や対処は分かれる。裁判は全員が納得できる判決を下すわけではなく、思惑や利害…
音楽アニメ『リメンバー・ミー』(米国、リー=アンクリッチ)の少年は、死者の国に紛れ込んだ。生還のためには親族の許可が必要だ。先祖だと思って国民的大歌手に助けを求めたが、彼は先祖ではなかった。本当の先祖は、相棒のミュージシャン。彼こそが、大…
重度のリュウマチを患うモード・ルイスと、孤児院育ちの行商人エベレット。『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』(カナダ・アイルランド、アシュリング・ウォルシュ)は、二人の不器用で一途な夫婦愛を、画家ルイスの世界にふさわしい絵画的映像…
旧友と詐欺師を追ううちに、放っておいた婚約者から愛想をつかされる男。『かぞくへ』(日本、春本雄二郎)は、悲しくも愛に満ちている。 リアルな人物造形と緻密な設定。男女それぞれの行きつく方向は異なるが、ここでは、家族的な人間関係が、広い意味でと…
願いと揺らぎ』(日本、我妻和樹)は、撮影者でもある監督の私的フィルムではない。 住民とのかかわり方を再三自問自答する監督よりも、住民のほうが、より切実で、存在感がある。彼らが伝統行事の復活にこだわるのは、自分たちの集落を残していきたいという…
『ハッピーエンド』(フランス・ドイツ・オーストリア、ミヒャエル=ハネケ)の一家は、秘密だらけだ。経営譲渡だったり、愛人だったり……。祖父と孫娘にも、身内の死にまつわる秘密がある。海中に車いすを沈める祖父も、見つめるだけの孫娘も、結末は、ハッ…
父殺しの復讐に燃える少年の予告殺人から免れるため、男は、家族の中でいけにえを選ぶ。 『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(イギリス・アイルランド、ヨルゴス・ランティモス)は、幸せなはずの家族を容赦なく不幸に陥れる。子ど…
列車内で発砲したテロと3人の若者との対決は、わずかな時間だけだ。それまでは、小学校生活や米軍訓練時のダメっぷりや、ヨーロッパでのゆるい観光旅行を、見せるだけ。『15時17分、パリ行き』(米国)は、それでも目を引きつけ、緊迫感あふれるクライマックス…
美女でもなく、野獣でもない。『シェイプ・オブ・ウォーター』(米国、ギレルモ・デル・トロ)は、さえない女と半魚人が、冷戦という時代、マイノリティーという立場を超えて、愛を成就させる。いかなるシチュエーションでも、愛は不滅だ。
『 願いと揺らぎ』(日本、我妻和樹)は、撮影者でもある監督の私的フィルムではない。 住民とのかかわり方を再三自問自答する監督よりも、住民のほうが、より切実で、存在感がある。彼らが伝統行事の復活にこだわるのは、自分たちの集落を残していきたいと…
美しい女たちの楽園で、突如現れた男は、じゃまでしかなかった。『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』(米国、ソフィア・コッポラ)は、南北戦争のさなか、争いをもたらすのは、男なのだと警告するかのようだ。
詩、コレクション、写真。詩人のすべてがアートだ。 『谷川俊太郎展』(東京オペラシティ アートギャラリー)は、散策するだけでよい。
デザインの良さで、ひきつける本の魅力。『平野甲賀と晶文社展』(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)は、手に取ることのワクワク感を演出してきた装丁家の魅力を、再認識させる。デザイン以外の分野への好奇心が、デザインをより鋭敏にしている。