2018-01-01から1年間の記事一覧

人と時間

濱口竜介の映画と言っても、『寝ても覚めても』(日本・フランス)は、2時間弱に収まっている。プロの俳優を使えば、濃縮した時間でも十分に広がりを感じさせることができるのだ。 似ていても異なる新旧二人の恋人に挟まれて、女の心は揺れるが、それでも落…

輪廻転生

愛しあいながらも陰謀で死を遂げた男女が、400年後に再会。インド映画だと、とにかくめちゃくちゃで、派手な話になる。めまぐるしく踊り、闘い、場面転換し……。『マガディーラ 勇者転生』(S・S・ラージャマウリ)を見れば、お腹いっぱい。まさにインド映画だ…

 みんなのために

『泣き虫しょったんの奇跡』(日本、豊田利晃)は、奨励会大会後に特例でプロ入り復帰を果たした棋士・瀬川晶司のサクセスストーリーよりも、彼を支える人々の印象が強い。担任教師、父、仲間、道場主、プロ入り支援者……。瀬川は、彼自身だけでなく、応援す…

あのとき、なにが?

民主化闘争時に取り調べ中の学生が拷問で警察に殺され、デモに出た若者は、催涙弾をぶつけられて死んだ。 『1987、ある闘いの真実』 (韓国、チャン・ジュナン)は、忘却されがちな歴史の裏面を掘り起こし、現代の観客に目撃させる。

お墓の所在

母の死後、亡父の墓の所在を巡って、後妻の娘と先生が衝突する。『妻の愛、娘の時』 (中国・台湾、シルビア・チャン)は、役所の手続きや遺族間の利害調整がややこしく、一筋縄ではいかないお墓の在り方を問いかける。

佐藤泰志の世界

どこか淡く、不足感のある佐藤泰志の小説は、映像化されることで、ようやく完成する。いわば、映画向けの小説なのだ。『きみの鳥は歌える』 (日本、三宅唱)で触れ合う男女3人の世界も、映像でこそ躍動し、空間を広げ、ずっと前からあり、これからも続くよう…

開き直り

……「おれにわかるように説明しろ」という態度では絵も音楽もダンスも小説も、それから料理も、人の気持ちもわからない。 ここに集めた小説の書き方は荒っぽく見ええたり説明不足と感じられたりするかもしれないが、私はこれらの小説を歌のように書いたんだと…

スパイ戦の連続性

陸軍中野学校のエリート青年たちは、沖縄の島民に取り入り、 ゲリラ戦に少年兵を誘導。地元民を相互の監視役にし、島民を強制移住させた。国体護持という名目は、離島の少数の民が犠牲になるのも、やむなしとする。 守るのは、民衆ではないし、民衆を信じて…

個の叫び

同性と付き合う。父親不明の子を産み、育てる。『極私的エロス・恋歌1974』(日本、原一男)の女は、現代ならば、決して特異とは言えないタイプだが、当時としては先鋭だったろう。 被写体として志願し、自然出産の姿を撮影する。衝動の源は不明だが、ここには…

哀れみなんか要らない

車いすを下り、街をはいずりまわる脳性麻痺の男たち。『さようならCP』(日本、原一男)で、賢明に言葉を発し、家族や仲間と衝突する彼らは、世間からの憐憫を駆逐する。

映画の根幹

ヘリの操縦、バイクの疾走、ビル間の跳躍……。スタントを自ら行なうトム・クルーズの熱演だけではない。『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(米国、クリストファー・マッカリー)は、映画としての面白さも、怠っていない。

自意識の変遷

建築家夫婦の特異な家に住む4人家族。『未来のミライ』(日本、細田守)は、それぞれの体験と感情を過去から未来につなげる。妹の誕生によって芽生えたこどもの自意識が、混沌としたまま、変遷していくさまは、大半の観客には理解されなったようだが、それだけ…

カメラの使い方

ポラロイドカメラを持つ女が、三角関係にある男女を振り回し、修復する。『クレアのカメラ』(韓国、ホン・サンス)は、設定も演出も、巧みな喜劇だ。

扉を開くために

日常生活を安全に平穏に過ごすための術も必要で、ルールや決められた行動や嗜好が安全域にあるんですけれど、不思議なことにそれだけでは人間は窮屈になってくる。SFは自分の自由感覚を取り戻すのに一番よい扉なんじゃないでしょうか。(萩尾望都『私の少女…

恐竜の明日

檻から出た恐竜を始末すべきか。『ジュラシックワールド 炎の天国』(米国、J・A・バヨナ)は、娯楽の王道というべき凝った撮影でハラハラドキドキさせつつ、『猿の惑星』的な人類への問いかけを突きつける。

謎の少女

ハン・ソロと久しく離れていた間、抜け出せない世界に入り込んでいた幼なじみ、キーラ。アナザーストーリー『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー¥』(米国、ロン・ハワード)は、旧作でおなじみのメンバーにいなかった謎の美少女が、サスペンスを生んで…

異議としてのフィクション

血のつながらない家族の犯罪。新聞の3面記事なら糾弾されて、おしまいというエピソードの背景を、是枝裕和は、柔軟に想像し、丹念に構成する。 『万引き家族』(日本)は、フィクションの特性を存分に生かした力作だ。 単純な道徳観で判断しがちな世間への異議…

生きるための会話

スキャンダルで女優を休み、異国で時を過ごす女。シリアスになりそうな設定であっても、軽妙に語るのが、ホン・サンス。『夜の浜辺でひとり』(韓国)は、仲間たちとの会話で芽生えたものが、いつのまにか彼女を救う。

妥協は要らない

相互の安易な和解もない。共感を求めようと言う迎合もない。『母という名の女』(メキシコ、ミシェル・フランコ)の母娘は、お互いが己を貫くことで、子どもの養育権を巡って、それぞれにふさわしい決着がつく。

小世界の物語

出版社の社長に、妻・愛人・新入社員という3人の女がかかわる愛の悲喜劇。『それから』(韓国、ホン=サンス)は、小世界のモノクロ映像にとどめることで、描かれていない物語への想像力を一層引き立てる。

スタジアム

グラウンドで駆け回る選手、大いに飲み食いしプレイに歓喜する観客、準備から後始末までスタジアムの職務に専心する働き手……。膨大な金が動くアメリカンフットボールの試合の運営には、大学OBによる巨額の資金援助も欠かせない。 『ザ・ビッグハウス』(米…

絵の夢

ただ絵を並べたてるだけではない。 絵には実人生が重なり、物語がある。日常に色合いを付け、叙情性をかき立てるのである。

人間画

植物であれ、風景であれ、すべて人間として、描くこともできるのだ。

死の痛み

寝台に横たわり、病の痛みに苦しめられ、衰弱して食欲さえないまま、死を待つ国王。絵画的映像で18世紀初頭をよみがえらせた『ルイ14世の死』(フランス・ポルトガル・スペイン、アルベルト・セラ)は、死の肉体的苦痛を知らしめる歴史映画だ。

歳月

青年期のやんちゃぶりは、完全に消えるわけでもないし、消す必要もない。奔放さが残っているからこそ、積極的に行動したり、痛みや味わいを反すうできるのだ。 『30年後の同窓会』(米国、リチャード・リンクレイター)は、再会した3人が、旅を通じて、半生を…

家族はつらい

『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』(日本、山田洋次)の亭主関白と主婦意識自体、やや時代がかって見えるが、設定よりも少し上の世代であれば、ありえた話なのであろう。 ともかく、寅さん的な独り者でも、家族を持っても、家族的なものとの付き合いは、…

演劇の自由

時事ネタあり、チェルフィッチュのパロディーあり、激しい乱痴気騒ぎあり。『日本文学盛衰史』(吉祥寺シアター)は、いつもの青年団の演劇とは、やや毛色を異にする。高橋源一郎の原作小説を踏襲しつつ、平田オリザの冒険心を解放した異色劇だ。 脚本・演出の…

人体

仮想空間が普及しても、身体性が軽視されるわけではない。 『特別展「人体―神秘への挑戦―』(国立科学博物館)の異様な混雑ぶりが、体の構造や不思議さに対する関心の高さを証明している。

愛の支配

『ファントム・スレッド』(米国、ポール・トーマス・アンダーソン)は、孤高のデザイナー、レイノルズが、たまたま迎え入れた年少の女に翻弄され、愛情に隷属するまでを、冷徹かつ、華麗に描いている。 支配した者が、支配される。レイノルズにとっての幸福は…

分類から遠く離れて

私は右翼左翼という文類を無駄だと思っている。ネトウヨという名付けも使わない。自分も他人も分類せず、まっすぐに議論することこそが面白い。(田中優子「風圧はこれから強くなる」――『週刊金曜日』6月1日号) 集団埋没して、ものを言う。特定の観念に縛ら…

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