成熟した関係

mukuku2007-01-28

 山田太一のテレビドラマ『まだそんなに老けてはいない』は、男女が一線を越えない節度がいい。
 定年間近の消防士が火災現場で足を折る。リハビリ中に見知らぬ男からそそのかされて、下着売り場で働く婦人と親しくなる。男は妻子持ちで、生まじめだ。関係ができそうになるが、自制する。ただ話をするだけでよく、ときめきだけで十分なのである。それ以上の関係に陥ると、彼自身ではなくなってしまう。
 境界線をすぐに越えればいいというわけではない。線がなくなると、人はおかしくなる。越えるにしても越えないにしても、線を前にしての躊躇があるから、かろうじて、自分を保てるのである。
 妙齢の男女が知り合ったら、セックスに熱中するのが美徳だとでもいうような、当節の不倫ドラマもある。そうした関係も否定しようとは思わないが、それは当事者が自分の思考として納得しているということが前提である。
 恋人であれ、夫婦であれ、成熟した関係とは、ある種の固定観念とは独立したところに存在する。

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