2008-01-01から1年間の記事一覧

アナクロ映画

映画は作り物だ。画面をもっともらしく見せられるならば、少々チャチでもいい。 『僕らのミライへ逆回転』(米国、ミシェル・ゴンドリー)のマイクは、急遽、数時間で自主映画を作らなければならなくなる。勤め先のレンタルビデオ店のビデオ画像が、友人・ジ…

暴力的人間

暴力と罵声。『ワイルド・バレット』(米国・ドイツ、ウェイン・クレイマー)に出てくる人間たちは、いずれも異常にテンションが高く、破壊的である。 全編がそれだけならば、単なるバイオレンス・アクションで終わってしまうが、乱暴な主人公ジョーイの素性…

老いても夢を

夫に先立たれて無気力になった老女マルタが、友人に励まされて、若い頃の夢を実現させる。彼女の夢とは……。 『マルタのやさしい刺繍』(スイス、ベティナ・オベルリ)には、マルタと対照的に、娘に夢を否定されたショックからか、急死する友人も出てくる。 …

監視対象

現代は、あらゆる場所、すべての人間が、高性能装置の監視対象になりうる。 『私がクマにキレた理由』(米国、シャリ・スプリンガー、ロバート・プルチーニ)の子守役、アニーは、隠しカメラで雇い人に監視されていた。 カメラがどこに隠されていたかは、映…

死刑の現実

渡辺源四郎商店『どんとゆけ』(こまばアゴラ劇場)では、被害者の遺族が死刑囚に対面後、自ら死刑に加担する。刑を前にした段階で、もはや遺族には死刑囚の心情が見えず、死刑囚にも、罪への反省とか、遺族に配慮する余裕がない。そして、刑は、きわめて事…

無名数学者の夢

大学の同期生が花形物理学者として脚光を浴びる一方、自身は無名の数学者として鬱屈した日々を送る。そんな彼にできるのは、片思いの未亡人による殺人を隠すために、自らも殺人を犯してアリバイ工作に協力することだけだった。 『容疑者Xの献身』(日本、西…

家族の安息

家族とて他人である。それぞれ秘密をかかえている。お互いにすべてを知る必要もないし、知らないことで、拒絶反応を起こさずに、つながっていられる。 『トウキョウソナタ』(日本、黒沢清)の戯画化された家族は、互いの秘密を犯そうとすることで、崩壊しそ…

勘違いこそ芸術

画商には嘲笑され、娘や妻には愛想を尽かされ……。 『アキレスと亀』(日本、北野武)の芸術家の勘違いぶりを笑う観客は、少なくないだろう。 だが、勘違いがあるからこそ、芸術に打ち込めるのである。

共感の幅

金もある。地位もある。そんなセレブたちにも悩みがあるというのが、『セックス・アンド・ザ・シティ』(米国、マイケル・パトリック・キング)。 彼女たちの悩みは男関係だが、セレブでなくてもありそうなレベルのこと。彼女たちに共感する女性もいれば、そ…

想定内

10勝0敗を目指すのではなく、5勝4敗1分けでいい。そう考えたら気が楽になりました。(秋元康「仕事力」『朝日新聞』10月5日) 仕事でも人生でも全勝はありえない。失敗を事前に折り込んでおくのは、現実的な知恵と言える。 しかし、全勝を狙いたくなる。ある…

文明圏

アラスカまでは車や列車を使い、費用はファーストフード店のバイトで稼ぐ。森での獲物狩りには銃を駆使する。 『イントゥ・ザ・ワイルド』(米国、ショーン・ペン)の青年、クリスは、荒野の一人暮らしによって物質文明を否定したようでいて、文明圏から抜け…

のぞき社会

SVはプライバシー侵害ではないのかという声はサービス開始直後からあり、すでに米国では訴訟が起きている。カナダでは国内法にSVが抵触することを政府がグーグル側に事前通告しサービス開始を見送った。(瀬下美和「住民の不安・怒りにどうこたえる? Google…

あの世行き

生前に周囲から疎まれた者も、慕われたものも、死は共通に訪れる。 死者の身を清め、あの世へと送り出す納棺師は、電車やバスの運転手同様、乗客を選ばない。 『おくりびと』(日本、滝田洋二郎)は、納棺師という運転手の日録である。

地球に優しい産業か?

鋼鉄のスーツを身につけてテロと戦う男。『アイアンマン』(米国、ジョン・ファヴロー)のトニー・スタークは、兵器製造会社の経営者だ。自社の兵器が民間人の殺戮に使われていたことを反省し、スーツを平和利用したのである。 自社の事業が結果として、どう…

聖と俗

可愛らしさと不気味さ、愛情と残酷。アネット・メサジェのぬいぐるみアートには、人間らしい相反する世界が混在する。(『アネット・メサジェ:聖と俗の使者たち』六本木・森美術館)

音の記憶

砂の上に炭の山が置かれ、後方の窓から樹木が見える。 水滴の音が聞こえる。 わたしたちの耳には、いま聞こえている音以上のものが聞こえているのだろうか。 (『ダニ・カラヴァン展』世田谷美術館)

物語を語るとき

大人が寝床で子どもに物語を聞かせるとき、子どもの反応を見ながら、自在に変えるだろう。どんな展開になるかは、語り手の気分が反映する。登場人物たちを殺さないでと、子どもに泣きつかれたら、まともな語り手ほど、結末を語るのに、ちゅうちょするだろう。…

死人ホーム

孫原と彭禹の共同作品『老人ホーム』では、車椅子に乗った老人たちが、床の上を動き、衝突する。 作り物なのに、老人の肌のしわも染みも、実物さながらの精巧さだ。 彼らは、なにがあっても、決して目を覚まさない。この老人ホームには、死者しかいないのだ…

書く楽しみ

家で一人でプロットを練ったり、脚本を書いている時、やっぱり自分は脚本家なんだなあと、しみじみ思う。 物語を作ること、台詞を考えることが、ひたすら楽しい。(「三谷幸喜のありふれた生活」朝日新聞9月19日朝刊) 舞台・映画・ドラマの脚本を同時並行で…

道楽者

芸術家は尊敬しない。芸術家であること自体に感謝せいと思う。水汲みに二十キロ近く歩く家族にアートなんか関係ない。アートって生活があって初めて成り立つ。先進国で芸術に携わって生きていけるのは幸せに決まってる。この道楽者っ、だな。(北野武談・日…

ばい菌音楽

「J-POPの世界は、CMなどとタイアップできるか、ラジオでかかりやすいかが大事にされ、ネガティブな言葉は避けられがち。でも僕はえげつない歌詞を書く。それでしか伝わらない人間の弱みみたいなものがある。抗菌・除菌されたものばかりじゃダメなんですよ」…

日常への復帰

より多くの黒人が、より危険な前線に送り出されたように、エスキモーやインディアンの若者たちもまた同じ運命をたどった。ベトナム戦争で五万八一三二人の米兵が命を落としたが、戦後、その三倍にも及ぶ約十五万人のベトナム帰還兵が自殺していることはあま…

産め産めと言うけれど

PTSD、心的外傷後ストレス障害とかいうものが流行して久しいが、妊娠出産育児にそれを応用する精神分析かなにかは、あるのか知らん。あって当然と思うなあ。あれって「自我」のある人間にとっては、凄惨きわまりない経験でしょう。(中山千夏「リブらんか…

創造の余地

しばしば「いままで作ってこられた映画のなかで、どれがいちばん好きですか?」という質問をされます。これは愚問だと思うんですよね。ものを作ることに関係している人間にとっては、いまやっているやつがいちばんおもしろいに決まっているじゃないですか。…

職業監督

映画は、無料でできるわけではない。自費だけでまかなえるものでもない。それだけに、興行成績が重視されるのだが、コンスタントに映画を撮れる監督は、作家性と商業性のバランスをうまく維持している。 「作家性の強い作品を撮り続けたいなら、絶対損をして…

強さ

阪神・赤星は、甲子園で敗戦につながる失策を繰り返し、地元大学の受験にも失敗。プロ入り後も挫折を繰り返したが、克服して一流の成績を挙げた。 高校時代の監督が感心している。 「本当に強い人間とは負けないのではなく、負けるたびに立ち上がり、苦い経…

引き出しを壊す

どうしても俳優は、これで食えるという引き出しだけで芝居をするようになりますが、それは質の高さではないのです。たとえばベテランと呼ばれる年代になっても、新しい一つの役に立ち向かうときには新人とまったく同じ取り組み方を目指し、なるべく今までに…

小説の方程式

方程式がないから私はまだアマチュアなんだと思う。でも、タイトルが決まると、「あっ、この作品は書き上げられるかな」と思いますね。(宮部みゆきインタビュー『ダ・ヴィンチ』9月号) 自分を絶対視しないことが、実作において、チャレンジ精神を継続させ…

芸術の生命

芸術は、ヒトの体から生まれた。そのヒトの体には、三十数億年の『生命の記憶』がつまっている。(布施英利『体の中の美術館』筑摩書房) 芸術は死骸ではないのである。

好球必打

今夏の甲子園を湧かせた常葉菊川が、好球必打の戦法に徹するまでには、紆余曲折があった。 三塁ベースコーチャーを務める高瀬旭弘が言う。 「センバツで負けてからパッとしなかったんで悩んでいたんですけど、心先生(佐野監督)が監督になってすぐ、『ボー…

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