ジャンルの広がり

『特別展アリス ─へんてこりん、へんてこりんな世界─』(森アーツセンターギャラリー)に展示されるのは、原作に関する資料だけではない。『不思議の国のアリス』から派生した絵画、映像、ファッションなど、ジャンルの広がりを一望させ、長年にわたって世界中で親しまれたことを証明している。

                                



戦後の痛み

  銃撃戦や前線だけが、戦争の舞台ではない。『戦争と女の顔』(ロシア、カンテミール・バラーゴフ)は、PTSDをかかえる看護師と、帰還した慰安兵という二人の女が、傷心と向き合いながら、戦後の軍人病院で勤めを続けている。唯一の救いだった息子を失った女は、誤って彼を死なせた同僚の女に、代わりに子どもを産むよう迫る。ここには、戦時か否かを越えた、不器用な人々の痛ましさがある。

                            

 

戦争の傷跡

 命を助ける役目にある医師が、捕虜にされた後、拷問された同胞の安楽死に加担する。身柄を解放されても罪の意識が消えることはない。家族と過ごしていても、苦悩は深まるばかりだ。

 非道な戦争の犠牲者といっても、傷跡は多様であり、『リフレクション』(ウクライナ、バレンチヌ・バシャノビチ)の外科医も、その一人である。

         

 

鎮魂の記録

 借金をしてまで、なぜ母が北朝鮮の息子たちに仕送りを続けるのか。『スープとイデオロギー』(韓国・日本、ヤン・ヨンヒ)は、監督自身が、母から済洲島事件の悲痛な体験を聞く。病で記憶を失いつつある母を記録することは、石碑にさえ名を刻まれることなく消えていった人々の、鎮魂にもなろう。     

        

 

進行形

 赤ん坊を手放す娘も、買い手を見つけるブローカーも、追う刑事も、それぞれの事情がある。『ベイビー・ブローカー』(韓国)は、疑似家族や命の意味を問い続ける是枝裕和の集大成だが、既成の価値観を越えるという意味では、進行形の作品である。

       

 

プレスリーの価値

 ロックスターの生涯を語るのは、彼自身ではない。『エルヴィス』(米国、バズ・ラーマン)の語り手は、彼を食い物にした悪徳マネージャーだ。辛辣な悪人と比較されることで、プレスリーの純粋な人間性や、歌の魅力が、いっそう浮き上がる。

 人種差別も既成感覚も、ものともしないパフォーマンス。プレスリーの価値は、今日、より増している。

     

 

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