脱力の普及

僕は84年に「逃走論」、85年に「ヘルメスの音楽」という本を出しますが、もともと怠惰でまったく生産的ではないし、別に何も成し遂げなくても、のんびり暮らして気楽に死ねばいいじゃないか、という人間(ニーチェなら「最後の人間」や「本人」と呼んだような)なので、年長者の推薦で何となく物を書き始めたものの、毎年のように本を出すのが面倒になりました。(浅田彰アイデンティティ・ポリティクスを超えて』―『新潮』2月号)

 早熟な知性と解析力に恵まれながらも、欲のない浅田の脱力ぶりは、欲望と上昇志向にまみれた人たちとは対極をなしている。もっとも、性差や国籍・身分にとらわれない平和とは、こうした思考の普及にあるのかもしれない。

                    

 

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