構築者の境地

 過大な広告を避け、予備知識抜きに見ることを迫った『君たちはどう生きるか』(日本)。題材といい、表現といい、宮崎駿の総集編とも言うべきものが、わかりやすくちりばめられている。素材をどのように置き換え、自分のものとして発展させるか。フィクションや絵という手段をどう活かすか。後進の表現者は、個々の要素を教科書のように、受け止めることもできよう。

 一つ一つの要素は、他のアニメへの改善案とも言える。顔に傷を負った少年は、それを能力の証として特別視するわけではない。不純さを自覚するためのものとして、受け止める。老いた宮崎が披露したのは、だれにも追随を許さないように完結したものではない。あえて、だれかが受け継ぐための余地を残しているかのようにも見える。

 天上で世界を構築した老人は、秩序を維持してきた積み木が、もう持たないと告白する。少年の目の前で、他人の手で積み木を壊されてしまうのだ。少年は、いずれ燃やされて消滅するであろう下界に戻る。それは、後進に託した宮崎の境地であろうし、この少年は、かつての自身でもあるのだろう。

                 

 

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