表現スタイル

mukuku2007-10-24

 伝統的な表現スタイルに甘んじるほうが、たやすいし、無難である。しかし、それでは、新しいものがなにも生まれない。新陳代謝がなければ、伝統もまた、廃れるだろう。

 だれもが小津の作風の特徴として挙げる「ローアングル」は、最初はハリウッド流のモダニストとして出発したかれが、背の低い日本人が真似た洋風の生活を、いくらかでも見映えがするように、キャメラポジションを低くして振り仰ぐ視角にした手法が、やがて日本人本来の和式の生活空間における挙措動作を、きちんと楷書で書くのに最適の文体となって完成されたものだ。
             (長部日出雄「新・紙ヒコーキ通信」『オール讀物』11月号)

 初めは奇異に感じさせる表現スタイルも、それを徹底させ、実績をあげてしまえば、周囲もおのずと認めざるを得なくなる。こうして生まれたものが、次の時代には伝統品として評価されるのである。
 

 

アクセスカウンター