いやらしさの俯瞰

 屋根のない家々を俯瞰し、家畜のような人間たちの行状をナレーターが解説する。『ドッグヴィル』(デンマーク、ラース・フォン・トリア)もまた、無垢な女の物語だが、ギャングに追われて、小さな村に潜入した彼女は、鎖をはめられたうえ、どれだけ村人に酷使され、ときには凌辱さえされても、決して村からは出ようとしない。彼女を愛し、理解しているとうそぶく作家志望の青年が、もしギャングを呼んでこなければ、ずっとこの関係が続いたろう。

 善人でありすぎることや、無抵抗であることは、かくも悲惨な結末を招く。女の逆襲によって、救いなき展開のうっぷんは晴らされるが、見せつけられた村人のいやらしさは、いずれも人間の現実に迫るだけに、脳裏から消えまい。

                 

 

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