環境に敏感な人は、年季を積んだところで、周囲への違和感が残るものである。
われわれは日々に、そして長年、周囲とさまざまに折り合って暮らし、そのことを苦と感じるのもいまさらの甘えであるように思いなしているわけだが、われわれの心の奥底には、どんなに体験や鍛錬を積んでも、どんなに人との交流を重ねても、どうしても周囲に適応できぬものがあり、これをすっかり矯めることはできない、と私はそう思う者であるからだ。そいつは周囲にたいして穏やかに対応できないので、人が近づきさえすれば、もう反射的に、傷つけられまいとして、ざわざわと針を立てる。(古井由吉『半日寂寞(はんにちじゃくまく)』講談社)
この、ざわざわした感触を抑えるとどうなるのか。上記エッセイ集で、古井が綴る。
この防衛過剰のようでしょせん無防備な、不安のかたまりを押し殺してしまえば、人の心もおのずと枯れるのではないか。
過敏なほどの不適応性。これを消去しないのが、自然な生き方だろう。