長嶋有の立ち位置

mukuku2007-05-05

 いるのか、いないのか、わからない。長嶋有の連作小説集『夕子ちゃんの近道』(新潮社)の主人公「僕」は、浮遊物のような存在だ。アンティーク店に居候するが、素性も名前もわからない。そもそも、生きているのか、死んでいるのかさえも。
 つかもうとしても、空気のようにすり抜けてしまう。体温を消し、姿をくらます。長嶋ワールドの住人には、現代人の願望が投影されている。
 あってもなくてもいいタイプの小説が、長嶋の作風では、否定的な評価と同時に、肯定的な評価にもなる。空気のような「僕」は、現代文学における長嶋の立ち位置でもある。

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