国家ぐるみで邪魔者を抹殺しようと思えば、手段はいくらでもある。殺害者の立場からすれば、活動は国益にかなうもので、やましさは、いっさい感じないのだろう。ここで問うべきなのは、何が国益かということだ。
ダニエル=ロアーのドキュメンタリー『ナワリヌイ』(米国)は、ロシアに帰国した被写体が、空港で拘束されるまでを記録している。現政権とは別の選択肢を国民に訴えた彼を生かしておく道は、この国ではもう、消えていた。
既成の価値観、因習に縛られずにすむのは、人工的に作られた人間だろう。『哀れなるものたち』(英国、ヨルゴス・ランティモス)のベラは、赤ん坊の脳を埋め込まれた人間故に、これまでの女性とは異なるタイプの人間として生まれ変わった。経験し、学ぶことによって、彼女は、自分ならではの人間になる。
ベラ的な性格を持つ人間が、この世にいないわけではない。本作が人間の可能性を広げられるかどうか。