漆器

 兄が海外で同性婚をするという話を除けば、『バカ塗りの娘』(日本、鶴岡慧子)は、ありふれた家族の物語かも知れない。けれども、日々の暮らしの中で、一番生き生きしているのは、伝統工芸・津軽塗を手がける場面だ。

 漆を塗っては研ぎ、いくつもの色を重ねて出来上がる器。需要やら、コストパフォーマンスとは隔たった作業。親子の溝も、とぎれた会話も、塗ることが代弁し、人を結びつける。廃校に置きっぱなしの古びたピアノさえ、津軽塗が加わることで、輝きを増し、異国の人の目にさえ、触れるのである。

         



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