身一つで金稼ぎのためにアラスカ行きを目指す女が、途中のオレゴンで、金も車も失い、唯一の友である愛犬さえ、手放すことになる。『ウェンディ&ルーシー』(米国、ケリー・ライカート)のヒロインは、ひたすら不器用だが、譲ることなき意思があり、優しさがある。何もかも失って、それでも貨物列車に乗りこんで、目的地を目指す彼女を、応援せずにはいられない。
『ハリーの災難』(米国、アルフレッド・ヒッチコック)のモチーフは、冒頭から死体になっている。彼の処置をめぐって、町の住人は、喜劇的なやり取りに終始する。埋めては堀り返し、また埋める。挙句は風呂場で洗われる死体。自分のせいで死んだのか? 住民の思い込みは、真相から、ことごとく外れている。死体は異臭を感じさせず、置かれた山の紅葉が異様に美しい。かくして、異色でありながら、エピソードにふさわしい展開に収まるのである。