なぜ彼女は?

 変わり者にしか見えなかった女の秘めた意外な計画。『プログラミング・ヤング・ウーマン』(米国、エメラルド・フェネル)のキャシーが執念をかけて晴らすのは、友人の仇であり、虐げられた女の怨念である。恨みは、男社会の共犯者とも言える同性にさえ向けられる。妥協はない。意外なストーリーだけにとどまらぬ支えがある。

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彼女たちの結束

『17歳の瞳に映る世界』(米国、エリザ・ヒットマン)は、望まぬ妊娠をした女子高生が、親の同意なしに中絶が可能な他州へバスで向かう。付き添うのは唯一の友とも言える従兄弟。シンプルな設定に、女性問題、法規制など、様々な問題が取り上げられる一方、かたくな女と天使のような女という二人の結びつきが、無神経な男たちと対比されて、魅力的に浮かび上がる。

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本来の政治家

「日本のデモクラシーも安倍政権以後「ジャクソニアン」化しつつあるというのが私の診たてである。日本の有権者たちはある時期から統治者に高い能力や見識や倫理的インテグリティーを求めることをやめた。……それよりはむしろわかりやすい人気取り政策を行ない、味方と身内を重用し、「政治的に正しい理想」は鼻先でせせら笑うような「等身大の政治家」を好むようになった」(内田樹『後手に回る「リアリスト」』-『週刊金曜日』6日・13日合併号)

 

 政治の役割を否定したり、関心を拒む者も、政策と無縁ではいられない。本来の政治家に必要とされる大局観や責任感は、経済・文化・スポーツの分野の人々に学ぶどころか、はるかに上回るべきものだろう。

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生きること

本の雑誌』8月号の特集『途中経過! コロナと出版』では、書店・取次・印刷会社・図書館・倉庫から編集者・ライター・校正者・装丁家などが、影響度を報告している。もっとも、写真家の奥山淳志は、「コロナ禍のようなもので人生観を変えなくていけないほど゛生きること゛に無頓着に過ごしては来なかった」と明言している。

そんなことより今の僕が大切にしているのは犬と猫の餌やりだ。時間があれば毎日、人間に裏切られた犬と猫に食べ物を持っていく。そして、人間世界の雑音の届かぬ世界で彼らの魂を覗き込む。僕はそれを心に写し取り、言葉に置き換えていく。(同誌)

 

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無意識

……学生たちに教えたのが、長く書き、いらない部分を削れということ。書いて、削って、を繰り返せと。なぜそれをするかというと、無意識をどこかから引きずってくるためなんです。……無意識だまりというのは、地下水脈みたいに地球の下のほうにある。つまり人間が何百万、何千万といたら、その人たちのところにもつながっている。(「インタビュー 伊藤比呂美」『ダヴィンチ』8月号)

  普遍性は無意識にある。

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配達員の風景

 コロナ禍で仕事がなくなった映画監督が、上京して「Uber Eats」の配達員を始め、その記録映画が、くしくも格差社会の現実をあぶり出していく。

 そのときのポジションによって、見える風景は異なる。『東京自転車節』(日本、青柳拓)に映された風景は、便利さを享受するだけの人々には見えていなかった被写体である。

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終わりなき戦い

 ヒロインが自身を育成した組織に立ち向かう『ブラック・ウィドウ』(米国、ケイト・ショートランド)。単なるスパイアクションではない。組織のメンバーである疑似家族の物語だ。組織の陰謀を知り、一家は共通の敵を倒すが、達成感は一時のことに過ぎない。最強の暗殺者、ブラック・ウィドウは、任務のため、生涯、戦い続けることだろう。

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