メイドと三味線

 横浜聡子の新作『いとみち』(日本)は、これまでのように主人公が強烈なキャラクターというわけではないが、メイドカフェで働く女子高生が、カフェ存続のため、得意の津軽三味線を披露するという一風変わった筋立てである。家族の結束、地方の活性という普遍的なテーマが加わることで、監督の持ち味は薄まったが、親しみやすい映画になっている。

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生と死の関係

『Arc アーク』(日本、石川慶)の前半では、ひもを使った遺体の保存施術が、グロテスクな映像によって披露される。テーマが深みを増すのは、むしろ後半だ。不老不死が実現された世界で、人間が人間として生きるために、個人がどのような選択をするのかを、たどっていく。

 生と死は、双方がないと成り立たない関係にある。

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身体の多様性

 音に反応して人を襲う怪物たち。続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(米国、ジョン・クラシンスキー)では、ホラーサスペンスに加え、耳が不自由なか、家族が生き残るために決死の試みをする娘の活躍に、焦点があてられる。

 特異な状況では、補聴器もまた、強力な武器となる。身体の多様性は、人類を救う。

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あなたのために

 車いす生活の娘のため、毎日献身的に尽くす母。だが投与された薬の実態や母との関係について娘が知った真相は驚くべきものだった。『RUN ラン』(米国、アニーシュ・チャガンティ)は、車いすという制約によって展開されるスリラー。母娘の屈折した愛憎は、母が入院しても続くのである。

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ダメ母の魅力

 大食漢で、能天気で、男にだまされてばかりで……。そんな肉子を小学生の娘が冷めた目で見つめるが、それでも母のことが大好きだし、良さもわかっている。出生の秘密を知っても、関係が途切れることもない。

『漁港の肉子ちゃん』(日本、渡辺歩)では、肉子の魅力が、映像世界と演出によって、伝わるようになっている。ダメ母の声を演じた大竹しのぶを含め、アニメというジャンルの活かされた好編だ。

 

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抗議のために

 新作『アメリカン・ユートピア』(米国、スパイク・リー)の公開を機に再上映された『ストップ・メイキング・センス』(米国、ジョナサン・デミ)。デビッド・バーンの率いるバンドの多国籍性、メッセージの社会性は、当時から一貫している。バーンが舞台を縦横無尽に動き回りながら、歌も演奏も全くぶれないという強靭ぶりも不変だ。その強さ自体が、自由の破壊者への抗議と言えるだろう。

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香港のスター

 中国支配下の香港では、学生であれ、新聞記者であれ、たてつく者は、封殺される。スター歌手のデニス・ホーとて、例外ではない。スポンサーが離れ、公演も開催できない。教師である両親にのびのびと育てられ、海外生活を経て、表舞台に立った彼女は、自分が自分であるために、民主活動を続け、人々のために歌う。

デニスホー ビカミング・ザ・ソング』(米国、スー・ウィリアムズ)は、米国のドキュメンタリー監督がとらえたスターの素顔だ。

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