新作『アメリカン・ユートピア』(米国、スパイク・リー)の公開を機に再上映された『ストップ・メイキング・センス』(米国、ジョナサン・デミ)。デビッド・バーンの率いるバンドの多国籍性、メッセージの社会性は、当時から一貫している。バーンが舞台を縦横無尽に動き回りながら、歌も演奏も全くぶれないという強靭ぶりも不変だ。その強さ自体が、自由の破壊者への抗議と言えるだろう。
映像に音声が合わないというトラブルを克服し、半世紀の時を経て公開された実写版『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』(米国)。このドキュメントで監督のシドニー・ポラックが優先させたのは、ミュージックビデオとしての洗練度ではない。魂のこもったアレサ・フランクリンの歌声。それに、教会でミュージシャンや聴衆を集って撮影した時代の熱気であり、多くの人々が音楽を通じて結びついた瞬間である。
昼は採掘場でパワーショベルを運転。夜はステージで、バンド仲間と心の叫びを歌い上げる。党に利用され、秘密警察に仲間の監視を要請されたのは、東独の理想を信じたからだった。ゲアハルト・グンダーマンは、東西統合後にかつての活動を告白する。『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』(ドイツ、アンドレアス・ドレーゼン)は、時間軸の交錯によって、伝説のミュージシャンの複雑な生涯を体感できる。
グンダーマンは、現場の軽視や理念の押し付けを断固として、はねつける。感情に率直なあまり、妻との関係も、屈折している。
監視社会にあっても、単純でないからこそ、人間的な魅力が維持された。彼の歌が聴衆の心をとらえたのは、自然な流れだった。
絵柄も雰囲気も多彩な岡本忠成のアニメーション。『チコタン ぼくのおよめさん』では、好きな女の子のために少年があれこれがんばるが、好意を得たかと思いきや、悲劇に見舞われる。『虹に向って』では、隣村同士の男女が、苦労の末に橋を築き上げ、念願のとおり結ばれる。ひたむきな純愛に臭みがないのは、人形劇ならではだ。『おこんじょうるり』は、孤独な老婆とキツネの情愛が民話調で綴られる。