避難民


 救援物質の衣服もデザインが気に入らなければ、着たくない。励ましの歌は、当事者でない者の独りよがりに聴こえる。当選した仮設住宅も、狭くて貧相な造りには、がっかりする……。
 被災者の反応をぜいたくだと言って、喝破することはできない。災害の有無を除けば、どの地に住む者も、人間であることに変わりはないからだ。
 ドキュメント『石巻市立湊小学校避難所』(日本、藤川佳三)に写される地元の避難民は、明るくふるまいながらも、不満や失望を隠せない。
 大津波の惨事を見て以来、長く感情を殺し、大人のようにふるまう子ども。政策のあいまいさに業を煮やし、子を連れて、東北から離れる母親。家業の復活のために、着々と準備する初老の男は、残り少ない人生でどこまでできるのか、不安の色を消せない。
 被災者を聖人化すべきではあるまい。起きたことがなんであれ、人生の転換は、本質において、誰とも差がないのだ。
 

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