小説のリアリティ


 どんなリアリズム小説の場合であろうと、言語表現は現実に何がしか抽象化の作用を程こさずには成立しえず、そのぶん「生の」現実からは遊離することになる。他方、現実からの遊離を最初から前提としたファンタジーや幻想譚の場合、何らかの堅固な具象の手触りで支えていなければ、とりとめのない空想の垂れ流しにしかならず、迫真の物語体験の興奮を読者にもたらすことはできない。
 いわゆる小説の「リアリティ」なるものは、この抽象とこの具象の間に危うく達成される微妙な均衡のことに他ならない。(松浦寿輝文芸時評」『朝日新聞』8月29日朝刊)

「リアリティ」とは、面白さと言ってもいい。

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