小説と美談


 小説はもともと美談を好まない。百万円はいつてゐる財布を拾って交番に届けました、なんて話は書かない。書いたつていいけれど、誰も読まない。彼と彼女は結婚して、一夫一婦制の伝統の確立のため努力して一生を終へました、なんて話は書かない。むしろ逆のことを書く。
          (丸谷才一『あいさつは一仕事』朝日新聞出版)

 平坦な話、なだらかな物語からこぼれたものが、小説なのである。

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