保坂和志の新作小説が発表されなくなって久しい。代わって、小説論たるエッセイを旺盛に執筆している。『小説の誕生』(新潮社)では、ハイデガー、カフカ、ベケットその他を取り上げつつ、刺激的な論考を展開し、小説について考えることの面白さを触発する。
「小説論」というのは思考の本質において、評論でなく小説なのだ。
保坂の小説自体、小説について考えるプロセスを書いたようなものだ。しかし、上記のように言ってしまうと、世界を書くこと、つまり小説そのものを書くことができなくなる危険性がある。
小説は、思考だけではなく、書くという行為を経て成立するジャンルなのだ。