足跡

mukuku2007-02-25

 弘前劇場『真冬の同窓会』(ザ・スズナリ)では、結婚式を兼ねた同窓会が開かれる。その参加者はどうやら死者らしい。考えてみれば、フィクションで描かれる人物というのは回想すべき死者であり、その世界は記録のためのアルバムとも言える。わたしたちは、彼らや彼女を振り返り、なつかしみ、憎み、愛することで、流れていた世界を追体験するのだ。
 小川洋子は『物語の役割』(ちくまプリマー新書)で、小説についてこう書いている。

 先を歩いている人たちが、人知れず落としていったもの、こぼれ落ちたもの、そんなものを拾い集めて、落とした本人さえ、そんなものを自分が持っていたと気付いていないような落し物を拾い集めて、でもそれが確かにこの世に存在したんだという印を残すために小説の形にしている。 

 この行為は、小説に限られたことだけではない。足跡を残すために、人は生きるのである。                                    

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