声を届ける

 報道もされ、本でも公表された。被害者の一人である女優が実名で登場し、ブラッド・ピットらが製作に関与する。映画界の大物プロデューサーの性的暴行を映画人があえて映画にした。『SHE SAID シー・セッド その名を暴け』(米国、マリア・シュラーダー)の公開は、米国の映画に健全さが残っていることの証拠だろう。

 口の堅い被害者たち(それぞれに言えない事情がある)を二人の女性記者が丹念に追い、新聞社の上司たちがサポートする。被害の場面は、映像として煽情的に再現するのではなく、証言のみで伝える。子育てに苦労したり、カフェで差別的な言動をあびせられることもある記者は、被害者同様、等身大の人間だ。地味な演出に徹したことで、声を出せなった人たちの痛みと、その声を拾い上げることの大切さが、より深部まで届くだろう。

 力関係による強圧は、特定の国の、特定の事態にのみ起きることではない。この映画は、あらゆる世界の構造や人間の不合理に目が届くような作りになっている。

       

 

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