文学の作用


 どれほどすぐれた感動的な作品であっても、言葉による作品が南アフリカで苦しんでいるエイズ患者、あるいはその他、現実の苦境におかれた人々の現状を変えることができるかどうか、私にはわからない。どんなに力強い詩でも、現実の苦痛を取り除いたり、不正行為を排除したりすることはできないだろう。だが、どれほどへたな詩でも、とくに選ばれた秘密の読者にとっては、得がたい慰めとなり、武器を取るように促し、幸せの輝きを見せ、ひらめきを与えるにちがいない。ささやかなページの中の何かが、不可解にも、また思いがけなく、叡智とはいわないまでも、叡智の兆しを感じさせてくれる。その叡智とは、日常生活の経験と文学的現実の経験のはざまで得られるものなのだ。(アルベルト・マングェル、野中邦子:訳『読書礼讃』白水社。)

 文学は、見える現実ではなく、見えていない現実に、必ずや作用している。

アクセスカウンター