嵐の前に

mukuku2008-01-20

 アスベスト後遺症、自殺未遂、離婚……。私小説作家・佐伯一麦の過去がいかに困苦の連続だったかは、今さら触れるまでもない。
 たとえ、『ノルゲ』(講談社)で描かれたオスロ滞在の一年がいかに平穏であろうと、そして現在の妻との生活がどれだけ幸福に満ちていようと、つかの間の平和のように思えてしまう。

 おれは愉快な気分でボールを取りに部屋の隅へと向かった。開け放している窓から鉢が入ってきて、おれの頬を掠め、また窓の外へと飛び去っていった。

 嵐の前の静けさかもしれない。だが、静けさがずっと続くと信じても、いいではないか。

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