タスマニア島の観光地で起きた青年の銃乱射事件。『ニトラム NITRAM』(オーストラリア、ジャスティン・カーゼル)は、奇異な犯人に免罪符を与えるわけではない。それでも彼を眺めるうちに、人からばかにされた彼の行動原理が理解できるようになる。不器用な人間の決行は、必然だった。
戦争もなければ、貧窮があるわけでもない。『S高原から』(青年団)では、働かずとも療養所で優雅に暮らせ、一風変わった癖のある人間たちの日常が演じられる。下界から離れ、労働や結婚、家族との関係を断ち切り、気ままに生きているかに見えて、当人以外の口から、それぞれの余命は決して長くないことが明かされる。入居者がいかなる病気かは明かされず、目立った症状が起きるわけでもない。それでも、彼らに共通するのは、いつか誰にでも訪れる死という現実だ。
世俗との接触を避け、自由に過ごせるようになったとき、人は何を気にするのか。長年離れた親族との再会。元婚約者への悔恨。肉親同士の禁愛……。それぞれのエピソードが、終末期に入った人間の到達点に見える。
30代独身者のたわいない日常、厄介な異性との三角関係、仕事での大失敗というだれにも思いあたる話題をちりばめつつ、日記やアイテムの使い方もこなれている。主演のコケティッシュな魅力に加え、どの場面も、奇異をてらわないのに、しゃれていて、退屈させない。軽いだけの話に見えて、『ブリジット・ジョーンズの日記』(米国、シャロン・マグワイア)の映画的な魅力は侮れない。