なぜ彼は?

 タスマニア島の観光地で起きた青年の銃乱射事件。『ニトラム NITRAM』(オーストラリア、ジャスティン・カーゼル)は、奇異な犯人に免罪符を与えるわけではない。それでも彼を眺めるうちに、人からばかにされた彼の行動原理が理解できるようになる。不器用な人間の決行は、必然だった。

      



 

猫の思惑

 離婚間近の男女には、それぞれ愛人がいて、お互いの関係がこんがらがる。『猫は逃げた』(日本、今泉力哉)は、いかにも小品めいた設定だが、会話と場面転換が軽妙で、クライマックスで激突しても、どうにかこうにか、収まる。飼い猫は、彼らの間を行き来するが、人様の思惑なんか、気にしないのだ。

     

 

終末期の過ごし方

 戦争もなければ、貧窮があるわけでもない。『S高原から』(青年団)では、働かずとも療養所で優雅に暮らせ、一風変わった癖のある人間たちの日常が演じられる。下界から離れ、労働や結婚、家族との関係を断ち切り、気ままに生きているかに見えて、当人以外の口から、それぞれの余命は決して長くないことが明かされる。入居者がいかなる病気かは明かされず、目立った症状が起きるわけでもない。それでも、彼らに共通するのは、いつか誰にでも訪れる死という現実だ。

 世俗との接触を避け、自由に過ごせるようになったとき、人は何を気にするのか。長年離れた親族との再会。元婚約者への悔恨。肉親同士の禁愛……。それぞれのエピソードが、終末期に入った人間の到達点に見える。

              

 

軽さの魅力

 30代独身者のたわいない日常、厄介な異性との三角関係、仕事での大失敗というだれにも思いあたる話題をちりばめつつ、日記やアイテムの使い方もこなれている。主演のコケティッシュな魅力に加え、どの場面も、奇異をてらわないのに、しゃれていて、退屈させない。軽いだけの話に見えて、『ブリジット・ジョーンズの日記』(米国、シャロンマグワイア)の映画的な魅力は侮れない。

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彼らは負けない

 続編『SING シング ネクストステージ』(米国、ガース・ジェニングス)では、ローカル劇場で成功したミュージシャンたちが、大劇場でのミュージカルに挑む。彼らを馬鹿にした冷酷な経営者を見返す奮闘ぶりが、観る者を元気づける。

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可視化されたもの

 ただ発想を転換したり、表現技術に固執するだけのアート集団とは違う。『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』(森美術館)で一望できるのは、17年にわたる社会派プロジェクトの軌跡だ。都市であれ、震災であれ、原爆であれ、可視化されたものは、美術館内だけの体験で終わらず、日常に回帰しても、再生されるだろう。

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神聖な戦い

 徹底的に陰鬱であることで、『THE BATMAN ザ・バットマン』(米国、マット・リーブス)のサスペンスは、重みを感じさせる。尊敬していた親の秘密、都市の守護者である警察や市長の汚職……。それでもバットマンこと、ブルース・ウェインは、悪を見極め、身も心も傷つきながらも戦う。愉快犯に屈しない姿には、救世主のような神聖さがある。

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