終末期の過ごし方

 戦争もなければ、貧窮があるわけでもない。『S高原から』(青年団)では、働かずとも療養所で優雅に暮らせ、一風変わった癖のある人間たちの日常が演じられる。下界から離れ、労働や結婚、家族との関係を断ち切り、気ままに生きているかに見えて、当人以外の口から、それぞれの余命は決して長くないことが明かされる。入居者がいかなる病気かは明かされず、目立った症状が起きるわけでもない。それでも、彼らに共通するのは、いつか誰にでも訪れる死という現実だ。

 世俗との接触を避け、自由に過ごせるようになったとき、人は何を気にするのか。長年離れた親族との再会。元婚約者への悔恨。肉親同士の禁愛……。それぞれのエピソードが、終末期に入った人間の到達点に見える。

              

 

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