誇りの犠牲


 日本の統治以前、台湾では、狩猟地をめぐる部族間の争いが絶えなかった。
 首狩りさえも行なわれたが、原住民同士ならば、お互いを壊滅させるほどには至らない。
 日本軍との戦いは違う。原住民が抵抗を続ける限り、人も家も野山も、すべて失う覚悟が必要だった。
セデック・バレ』(台湾、ウェイ・ダーション)で武装蜂起した原住民に、守るべき家族はない。女子供も老人も集団自決。文字どおり背水の陣だった。
 支配者が代わるだけで、戦争を絶やさない男たち。誇りにこだわるが、誇りは守れたのか。
 戦いの狭間、女の歌声が夜空に響く。男たちへの疑義が託された歌だった。

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