奥崎謙三的なもの

 原一男・疾走プロダクション編著『ドキュメント ゆきゆきて、神軍 増補版』(皓星社)は、本編のドキュメンタリー映画を上回る奥崎謙三の強烈なエピソードを明かしている。執拗さ、強引さ、いやらしさ……。とは言え、被写体の元軍人であり、犯罪者でもある奥崎は、狂気の人ではない。

「自分の中の《狂気》と《正気》を、奥崎謙三はよく承知している。奥崎謙三は《狂気》をコントロールできる人なのだ。《狂気》をコントロールしながら、奥崎謙三は巨大な相手と闘ってきた人なのだ。そんな人間がパラノイアであるはずがない」(同書)

 奥崎に潜むものは、奥崎だけにあるのではない。奥崎を恐れる者は、己の封印した根源的なものへの衝動を、抑えたいだけにすぎないのである。

アクセスカウンター