平凡な作家

 林真理子の『女文士』(新潮文庫)は、決して有名ではない作家・眞杉静枝の評伝である。どれだけスキャンダラスに語られようと、眞杉自身は、同時代の辛辣な作家と比べれば、さほど異常ではなく、むしろ平凡と言ってもよい。上昇志向もあり、実際に成功した林とは、対極にある眞杉を、若い作家志望者の視点を借りて、戦前から戦後にかけての時代を描き切った手腕は、手慣れたものだ。

 男や家庭環境に恵まれないために、似合わぬ苦労をしょいこみ、成功を夢見ながら、夢見るだけで終わる眞杉は、著名な作家の評伝よりも、よほど親近感を抱かせる。

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