昭和の最後から

   再演となる青年団『眠れない夜なんてない』(吉祥寺シアター)は、2008年初演時にはなかった「昭和の最後の日」を設定に加えられたことで、同様に自粛ムードの広がっていた時代と今の何が違うかということと、何がつながっているかが見えてくる。

  当時、日本人がマレーシアに定住できたのは、成熟期を迎えていた日本と現地の経済的格差の恩恵によるものだった。とはいえ、日本の本土でも万人が満ち足りていたわけではない。変化についていけなかった若者たちは引きこもり、天皇の病身が伝えられて以来、イベント業者は仕事を失っていた。

  高齢者とて、繁栄した国を肯定するわけではない。国に捨てられた恨みを持つ軍隊経験者は、たとて家族にせがまれても、日本に帰ることをかたくなに拒む。老いた男たちは、「ここにいたい」「もう、どこにも行かなくてもいいだろう」と言うのだが、この言葉は、彼らがしがみつく今という時代でさえ、希望とは裏腹に、変わり果てて消え失せることを予見させるのである。以後の日本は、成熟期を終える。

 

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