一人では見えない

 山間部の町で死んだ女性をめぐる人々の思わぬつながり。町だけの話かと思いきや、アフリカのネット詐欺まで絡んでいたことが発覚する。『悪なき殺人』(フランス・ドイツ、ドミニク・モル)は、もはや一人では俯瞰しようがない人間社会を浮き彫りにする。

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水俣は今

 検査法も被害者補償も、未整備の部分が多く、水俣病対策は決して、終わったわけではない。時間の経過につれ、患者も遺族もなくなり、裁判でも和解し、葬り去ろうとされた公害の風化が、『水俣曼荼羅』(日本、原一男)に映されている。利害関係者の責任追及や被害者の活動だけでは解決できない事柄が多い。監督の望むとおり、水俣の伝承は、だれかが引き継ぐことになろう。

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世界を救う多様性

『COME & GO カム・アンド・ゴー』(日本・マレーシア、リム・カーワイ)は、大阪の繁華街で生きる日本人とアジア人の群像劇。難民・留学生・観光客・技能実習生、など、通常のドラマだと主役になりにくい人物のうごめくさまが、他国の映像を見るかのような新鮮な目でとらえられている。出身の多様性は、閉塞感から世界を救う。

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行政の価値

 公務員に対しては、予算を削り、職員を減らすと言った政策が、あたかも有益であるかのように宣伝されがちだ。行政の仕事や価値は、市民なり、政治家なりにどこまで理解されているのか。『ボストン市庁舎』(米国、フレデリック・ワイズマン)では、民主的な市長のもと、住民一人一人の生活に不自由のないよう、誠実に職務をこなす職員の姿が紹介される。

 あまり知られていない多種の職務が、どれほど興味深く、有効なものなのか。社会は少数の特権的な立場の占有物なのか、それとも、多数の人々によって成り立っているものなのか。映像を見つめるだけで、実感できる。

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カンボジア人のドーナツ

  内戦を逃れて、カンボジアから米国に渡り、ドーナツ店を次々に開いて億万長者にのしあがった男。ギャンブルに走って、破産するが、彼の切り開いた道をカンボジア人が引き継いだ。今では、米国に多数の個人店がある。『ドーナツキング』(米国、アリス・グー)を見れば、ドーナツを食べたくなる。

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若き日の動画

庵野秀明展』(新国立美術館)では、幼少期から好んだ漫画やアニメなどが披露され、映像の鬼才の軌跡が一望できる。『新世紀エヴァンゲリオン』的なテーマ性やストーリー性は、後年、付与されたもの。本来の資質は、アニメーターにあり、若き日に作った動画には、躍動感と、確固としたイメージがある。

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謎の意図

 昔の南部の奴隷の話かと思いきや、なぜかスマホを使う軍人がいて、空を飛行機が飛んでいる。『アンテベラム』(米国、ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ)は実に奇妙な映画だ。設定の謎は、見ているうちに判明する。奴隷にされた黒人が、本当はいつの時代に生まれ、なぜ農園に連れて困れたのか。黒人女性が一線で活躍し、社会問題への言及も容易にできると思われる現代社会で、なおも彼女たちを攻撃する過激な差別主義者がはびこるというのも、現実を見ていれば、絵空事ではないと、気付くだろう。

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