コロナ禍で仕事がなくなった映画監督が、上京して「Uber Eats」の配達員を始め、その記録映画が、くしくも格差社会の現実をあぶり出していく。
そのときのポジションによって、見える風景は異なる。『東京自転車節』(日本、青柳拓)に映された風景は、便利さを享受するだけの人々には見えていなかった被写体である。
ヒロインが自身を育成した組織に立ち向かう『ブラック・ウィドウ』(米国、ケイト・ショートランド)。単なるスパイアクションではない。組織のメンバーである疑似家族の物語だ。組織の陰謀を知り、一家は共通の敵を倒すが、達成感は一時のことに過ぎない。最強の暗殺者、ブラック・ウィドウは、任務のため、生涯、戦い続けることだろう。
『Arc アーク』(日本、石川慶)の前半では、ひもを使った遺体の保存施術が、グロテスクな映像によって披露される。テーマが深みを増すのは、むしろ後半だ。不老不死が実現された世界で、人間が人間として生きるために、個人がどのような選択をするのかを、たどっていく。
生と死は、双方がないと成り立たない関係にある。
音に反応して人を襲う怪物たち。続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(米国、ジョン・クラシンスキー)では、ホラーサスペンスに加え、耳が不自由なか、家族が生き残るために決死の試みをする娘の活躍に、焦点があてられる。
特異な状況では、補聴器もまた、強力な武器となる。身体の多様性は、人類を救う。
車いす生活の娘のため、毎日献身的に尽くす母。だが投与された薬の実態や母との関係について娘が知った真相は驚くべきものだった。『RUN ラン』(米国、アニーシュ・チャガンティ)は、車いすという制約によって展開されるスリラー。母娘の屈折した愛憎は、母が入院しても続くのである。